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充足★(7/7)

強い者が、弱い者を虐げる。
弱い者が、更に弱い者を虐げる。
脈々と続く、最低な摂理。

壁を背に座らされた俺の前に、彼がしゃがみ込む。
同じ高さになった視線を合わせないよう顔を背けると、彼の手が首に食い込んで来た。
苦しさで、思わずその腕を掴む。
俺の力が強くなるにつれ、首の圧迫感も大きくなる。
抵抗しようにも、声にならない。
「この間の、あんたの顔、すごい興奮したんだよね」
もう片方の手が、俺の下半身をまさぐり始める。
その気配が、身体に妙な感覚を走らせた。
恐怖と苦痛、その中に微かな期待と高揚が混ざり込んで来る。
「もう一回、見せてよ」
服の上からモノを擦る彼の手、それを掴む俺の手に、力が入らない。

本当に、俺は、こんなことを望んでいたのか。
女のフェラで全く勃たなかったモノは、ごく僅かな時間で反応をし始める。
「早いね」
楽しそうな声が、耳元で響く。
「ヤバいプレイに、目覚めさせちゃったかなぁ」
視界が潤み、自分がどんな表情をしているのかも分からなくなってくる。
遠のく意識と、襲い来る快感で、身体がおかしくなりそうだった。
いきり立ったものが開放され、視界にぼんやりと浮かぶ。
親指で捻るように先端を擦られ、酷く抑圧された声が漏れる。
口の端から唾液が垂れ、首筋にかけて不快な感触を残していく。
モノを扱く手は緩慢で、俺の反応を見て愉しむ時間を引き延ばしているようだった。

彼の表情が、ふと歪む。
快楽を与えていてくれた手が、離れていく。
その手を俺の作業ズボンに擦り付け、彼は自らの携帯電話を胸ポケットから取り出す。
着信しているようだった。
それなのに、俺に死の恐怖を植え付ける手の力は弱まらない。
彼は一息つくと、その電話に応え始める。
徐々に遠のく意識の中、焦燥感だけが膨らんでいく。
残酷な時間は、なかなか終わらなかった。

「そうですか、ありがとうございます。・・・失礼します」
冷静な口調で発せられる言葉が、時間の終わりを告げる。
おぼろげな視界の中に、彼の満足そうな顔が映った。
「焦らされて、どんな感じ?」
その言葉が、屈辱という感情を押し流す。
待ち切れない、そんな思いだけが、彼に懇願の視線を向けさせた。
蔑むような表情が、付けられた枷を更にきつくする。
彼の手が近づき、僅かに触れた瞬間、俺は絶頂を迎えた。


前髪を掴まれ、顔を上げさせられる。
口を半開きにし、虚ろな目のまま、彼を見た。
「気持ち良くして貰ったんだし」
彼の唇が、耳に触れる。
「悪いと思ってんなら、オレのも、しゃぶれるよな?」

しゃぶるというよりは、ただ受け容れるだけの行為。
膝立ちになり、背中を反るように壁につけた状態で、彼のモノを口で受け止める。
目の前で、短い声を上げながら、壁に手をつき腰を振る彼。
激しい動きにつられて、俺の頭は何度も壁に打ち付けられる。
首を絞められるのとは違う苦しさが、脚を震わせ、痺れさせた。
「ああ、これ、すげ・・・」
そんな言葉が頭上から降ってきて、思わず視線を上げる。
目を閉じて、刺激に耐える彼の表情が目に入る。
あまりにも無防備で、本能的なその姿に、何故か心が動かされた。

喉の奥まで勢い良くモノを突き立てられ、視界に星が散る。
ピークが近い、そう感じた瞬間、彼はイった。
精液が口の中に満たされ、納まりきらない液体が、鼻の中にまで入り込む。
彼が離れていくと同時に、崩れるように上半身を床に投げ出し、それらを吐き出した。
幾ら咳をしても、不快な味覚が剥がれない。
気持ち悪さで、涙が出て来る。
「ごくろーさん」
そう言って、彼は事務所のトイレへと入っていった。


壁越しに聞こえる水音が止むまで、俺はその場に座り込んだままだった。
男に陵辱された男の気持ち。
言い知れない悔しさと、恥ずかしさ、そして恐怖。
貧困な想像力でも挙げられる答えの中に、今、俺が抱えている感情は含まれていない。

トイレから出てきた彼は、俺に近づき、手を差し伸べてくる。
その手を取って立ち上がり、入れ替わりでトイレに入った。
顔を洗い、うがいをし、服装を整える。
鏡に映る自分の顔は、まだ紅潮が抜けきらず、昂りの気配を覗かせている。
分からない、どうして、こんな気分になるのか。

ロッカーの側にしゃがみ込んで床を拭いている彼に、背後から声をかける。
「・・・すっきり、しましたか?」
「いえ・・・やっぱり、これじゃ、ダメみたいです」
彼は動きを止め、ゆっくりと立ち上がる。
そのまま振り返らず、俺に問いかけた。
「朝倉さんは・・・満足、しました?」
言葉が出なかった。
吐き出せない戸惑いが、彼に通じたのかも知れない。
「・・・僕と、同じですね」
振り返った彼の寂しげな表情が、胸に刺さった。

彼と俺の心の奥底に仕舞い込まれた感情。
それは、男に身体を犯されることで芽生える充足感。
震える手が、俺の手を捕らえ、握る。
自らを苦しめる欲求を満たす為には、互いの存在しか有り得ないのだろうか。
彼の視線を受け止めながら、思う。
次は、俺が、枷をかける番だ。

□ 26_充足★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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