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充足★(4/7)

まるで、身体中に水が染み込んでいくような感覚だった。
暗い闇の中に、水銀灯の光だけが仄かに輝いている。
相変わらず雨は強くて、見上げる空から次々と落ちてくる。
顔に当たる滴の感覚も鈍くなってきた気がする。
このまま眠りに落ちたら、全てを忘れられるだろうか。
そんな不毛な思考しか、もう浮かばなかった。

彼が去ってから、どれくらい経ったんだろう。
身体を避ける様に流れる水が、徐々に身体を冷やしているようだった。
空の機嫌を、雷鳴で感じる。
試しに起き上がると、酷い痛みが身体を駆ける。
確か、さっきから車の一台も通っていない。
ここが何処かも良く分からないまま、這うように、屈辱の場所を後にした。

濡れ切った作業服が、重りのように圧し掛かる。
急勾配の坂道を、足を引きずりながら、下る。
やがて、道の向こうに下品な色彩の照明がちらついてきた。
寂れた場所に良く似合う、古びたモーテル形式のラブホテル。
とにかく、横になりたい。
そう思いながら、所々破れたビニールの暖簾を歩いてくぐる。


部屋に入るタイミングを見計らうように、内線電話が鳴る。
「休憩ですか、宿泊ですか」
無愛想な男の声が、受話器から聞こえてくる。
「泊まりで」
「では、前金3000円をお願いします」
そう言うや否や、部屋の片隅にあるエアシューターに容器が送られてくる。
「ごゆっくり」
短い電話が終わり、部屋には静寂が訪れる。
濡れた札を容器に押し込み、フロントへ送る。
不快な感触の衣服を脱ぎ捨てると、幾らか気分が落ち着いた。

栓を捻ると、狭苦しいユニットバスに一瞬にして湯気が篭る。
細かな湯が、冷えた身体と心を、僅かながら溶かしてくれる。
曇った鏡に、彼の所業の印が映っていた。
自分からは見え辛い、けれど後ろから見れば一目瞭然の、他人の歯型。
夏も近いこの季節、隠すことも出来ない場所、それを分かっていたんだろう。

止めなかったことを、後悔していないと言えば嘘になる。
けれど、あそこで俺が止めようとすれば、同じ目に遭っていたことは間違いない。
ああするしかなかった。
自分を正当化する思考で、悔いを掻き消そうとすればするほど、身体が震えた。


風呂を出ると、エアシューターに容器が届いていた。
中には、簡素な手書きのマッサージのビラ。
一人客であることを、分かっているのだろうか。
頭を過ぎったのは、つまらない、不満解消の、連鎖。

フロントに電話を入れてから、部屋のドアがノックされるまで、時間はかからなかった。
戸口に立つ女を、俺はバスタオル一枚で迎える。
痣だらけの身体に怪訝な顔を浮かべ、彼女は部屋へ入ってきた。
歳は俺よりも上、30代の半ばと言ったところだろうか。
あまり化粧っけは無いけれど、スタイルは悪く無い。
「何分、しましょうか?」
自分の荷物をTVの脇に置き、彼女は髪を束ね始める。
俺は、ベッドに横になりながら、その問に答えた。
「・・・いくらで、やらせてくれんの?」

そんな質問は、慣れたものなのかも知れない。
さほど動揺を見せない彼女の視線が、値踏みをするように俺の身体を滑る。
しばらくすると、彼女は何も言わずに指を2本立てた。
「高いな・・・フェラだけで良いから、半分にしてよ」


温かく、柔らかい感触がモノを包む。
俺は寝転んだままで、上下に動く彼女の頭を眺めていた。
上半身だけ起こし、足を投げ出すように横たわる姿は、そこそこ色気がある。
脱がしたら、どうだろう、そんなことも妄想してみる。
それなのに、快感が身体に染み込まない。
くすぐったいような、もどかしいような感覚が、焦燥感を募らせた。

柔らかいままのモノを手で弄りながら、不満顔の彼女がぼやく。
「何なの?あんた、インポ?」
そんな訳無い。
ついさっき、男の手で、イかされたって言うのに。
彼女の顔が、下半身から上がってくる。
内出血の跡が無残に残る腹を撫でられると、軽い痛みが走った。
その手が首筋を滑り、歯形を捕らえる。
「・・・そー言う趣味、なんだ」
「んな訳、ねぇじゃん」
「あたし、別に、嫌いじゃないけど?」
不愉快な訳知り顔が、俺の顔に近づいて来た。
「セックスしたら、勃つかもよ?」
彼女の体重が身体にかかり、痛みが増してくる。
気分が、空になった。

□ 26_充足★ □   
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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