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帰着★(2/10)

それは、夢だったのかも知れない。
目を開けると、部屋の中は暗かった。
床に就いたのが夜中の2時過ぎ、寝付いたのは多分3時頃だから
2時間も経っていないだろう。
不意に、腹の辺りに冷たい手の感触が滑る。
Tシャツの中を静かにまさぐったと思うと、胸を通り、襟ぐりを越えて喉仏を指で撫でられる。
ちょっとした息苦しさで意識が戻っていく。
耳元で、寝息ではない、息遣いが聞こえる。
寝ぼけた意識の中で、自分がされていることを上手く認識できなかった。

後ろにいるのは浅沼のはずで、これは奴の手。
その手が、俺の顎に軽く添えられ、僅かに後ろを向かされる。
体を起こすような気配がしたかと思うと、唇に柔らかい感触が軽く押し付けられた。
どうして?俺はその疑問を深く考える暇も無く、睡魔に襲われる。
背後の身体は、再び俺に背を向け、横になったようだった。


「いつまで寝てんだよ」
そんな声で、起こされる。
昨日の酒が若干残っているのか、胸の辺りがムカムカした。
「あぁ?」
カーテンを開けられた窓からは、朝日と言うには高すぎるくらいの光が入ってきている。
ベッドに寄りかかるように座って煙草を咥えた浅沼が、俺を見ていた。
「・・・今、何時?」
「9時過ぎ」
「何でもっと早く起こさないんだよ」
「オレだって、さっき起きたばっかだ」

這うように、ローテーブルの上の煙草に手を伸ばす。
俺が咥えた煙草に、浅沼が火を点けてくれた。
寝ぼけた頭に、煙草の刺激が沁みた。
「やっぱ、シングルベッドに二人で寝るのは、無理があるな」
奴は首を左右に振りながら、そう笑う。
「そんなこと、分かりきってるじゃねぇか」
「お前、ベッド新しいの、買えよ」
「・・・馬鹿じゃねぇの?」
「本気だけど?」
じゃあ、お前が金を出せ、と言いかけて、ぐっと堪える。
きっとこいつなら、出す、と言いかねない。
「部屋が狭くなるだろうが」
「オレは気になんねぇけど」
「俺は、嫌なの」

しばらく経ち、浅沼が帰り支度を始める。
その様子を見て、真夜中のことを思い出す。
「そう言えば、お前、夜・・・」
「ん?」
夢か現かおぼろげだったけれど、唇の感触は、やたらにリアルだった。
「俺に・・・何か、しなかった?」
「別に、何も?」
「ホントに?」
「何なんだよ?」
「いや、なら、良いけど」
怪訝な顔をする奴を、これ以上追及しても無駄そうだ。
そう思いながら、腑に落ちない気分を払拭できなかった。


同僚を見送り、一息ついた部屋の中。
窓を開けると、冷たい風が吹き込んで来た。
建物だらけの風景を眺めながら、煙草に火をつけた。
考えれば考えるほど、浅沼の行為が現実味を帯びてきて、不安になる。
俺が気がつかなかっただけで、今までにもこんなことがあったんだろうか。
あれだけ女好きの奴が、どうして、よりにもよって俺なんかにキスをしてきたんだ。

世の中には、様々な性的志向が存在する。
当然のように、自分も、浅沼も異性愛者だと思ってきたものが、あの一つの行為で揺らいでいく。
冷静に考えれば、同性愛に大した拒絶感の無い自分がいることも確かで
もしかしたら、それは足を踏み込んでいないだけ、なのかも知れないとも思う。
倫理に背くという意識に、繋ぎ止められているんだろうか。

男に恋をする感覚は、分からない。
けれど、男との情事がどんなものなのか、試してみたい気もする。
足を踏み入れるべきでは無いのかも知れない世界。
夢現の出来事が、俺の好奇心を僅かに刺激していく。

□ 24_帰着★ □   
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コメント

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神様だけが知っている

どうして、突然、好きになるのか、神様だけが知っている。

なんか、そんな歌を懐メロで聞いた事があるような気がします。

錦糸町と亀戸って、副都心ですよね!?なんか、ザワザワした町のイメージと、我妻のザワザワした予感じみた心情とがシンクロしますね…。

自分の身内、例えば兄弟が突然亡くなった時は、親が子を亡くすのとは違う喪失感があります。
それが心の病で自ら選択した死なら、もっと早く気がついて治療していれば死なずに済んだかもしれないと悔やむでしょう。
病気でも、事故でも、もし~だったら…と、後悔する。
こういう時は、誰がどう慰めても、悔いは残ります。
でも、誰が亡くなろうと、自分の人生は続く、自分が死ぬ迄は…。せつないですよね。

私はあなたを慰める事は出来ないけれど、その哀しみの存在は知っています。

時間が解決してくれないこと。

時間が解決してくれる。
心から信じていなくても、そう実感することは多々あります。
けれど、当時年上だった方の年齢を上回った時、喪失感がより一層増しました。
時間が何でも解決してくれる訳ではない。
その時、改めて実感したものです。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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