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再誕(5/5)

通常、プレイヤーの名前は白で表示されている。
PKならば赤、PKKならば緑。
各々、PK・PKKの回数によってカウントが付き、その数字が大きいほど色が濃くなる。
目の前のPKの名前は、ほぼ極限まで赤く染まっていた。
そして、その側に立つ俺のキャラの名前も、極々僅かに赤みを帯びている。

彼の手に握られているのは、PKカウントが高いキャラしか持てない漆黒の剣。
今まで、相当数のPKを繰り返してきたことの証明だ。
しかも、サーバー上にも数本しかないと言われている、超レアアイテム。
PKK達が目の色を変えて狙っている理由は、ここにあるんだろう。

「どうして、ヒールなんかしたんですか」
Misallyと名前を変えた彼は、俺にそうメッセージを送ってくる。
「PKカウントが付くことは、ご存知でしょう?」
「知ってる」
「カウントを消すには、かなり時間がかかるんですよ?」
「でも、君にヒールするのが、俺の役目だろ?」
それは、俺の本心だった。
キャラが変わろうと、彼を癒すのが、俺の望み。
そんな思いが、俺を突き動かした。
「ここじゃ危ないから。どっか、他の場所で、話せない?」


人気の無い湖のほとりに立つ。
以前、Misatoちゃんに連れてきて貰った、彼女のお気に入りの場所。
けれど、今隣にいるのは、全身甲冑に身を包んだ深紅の名のキャラクター。
「噂は、本当なんだ」
「はい・・・」
「もう、Misatoちゃんは、戻って来ないの?」
「話が広まった以上、あのキャラは、封印ですね」
「そうか」
一番隣にいてくれたパートナーを失った気がして、気分が落ちる。
「俺は、これから、誰にヒールすれば良い?」

彼からの答えを聞くまでには、かなりの時間を要した。
「Farnsさん位の腕なら、皆喜んで組んでくれますよ」
それが彼の本心とは、思いたくなかった。
「そのキャラじゃ、本当のことは言ってくれないの?」
「そう言う訳じゃ」
「Misatoちゃんが言ったことも、全部演技?」
「違います。それは、違う」

ふと、彼の装備品ウィンドウを開く。
全身がレアアイテムで包まれる中、指輪だけが店売りのもの。
それは、あの時、俺があげた指輪だった。
「もっと、良い指輪、あるんじゃない?」
押し黙ってしまった彼に、問いかける。
「これは、オレの宝物だから」
「他の、買ってあげるよ」
「いえ、これで良いんです。あなたと、一緒じゃなきゃ、意味が無い」
彼は、何を言おうとしているのか。
おぼろげに予想が付いて、俺は若干緊張してくる。


「ごめんなさい」
沈黙を破った言葉は、謝罪だった。
「何が?」
「オレ、あなたのこと、好きなんです」
画面に表示された文字に、言葉が出なかった。
予想は付いていても、その状況が上手く飲み込めない。
「男同士なのに、ホント、気持ち悪いですよね」
彼は、ポツリポツリと言葉を文字にする。
「一緒に遊んでる内に、どんどん、好きになって」
言葉を選んでいるのか、発言の間が空く。
「自分でも、どうしたら良いのか、分からない」

誰かから好意を向けられることは、決して悪い気分じゃない。
俺が、彼を追いかけて幽玄の森まで行ったのも
PKカウントが付くと分かっていて、ヒールをかけたのも
もしかしたら、自分で気付いていない、彼への好意からなのかも知れない。
何より、彼のいない、この世界は考えられなかった。

「謝られても、困る」
身を引き裂くような思いで吐露した彼がどんな言葉を待っているのかは、分からない。
でも、これが俺の本心。
「君にヒールをかけるのは俺だけだ、って言ってよ」
その答えを待つ事無く、文字を吐く。
「もっと、君と一緒に、いたい」
居た堪れない間の後、画面に文字が浮かぶ。
「ありがとうございます。これからも、癒して、下さい」


「そのキャラ、メインで行く?」
「いや・・・新しいキャラを作るのは、どうですか?」
「構わないよ。今度もネカマ?」
「お望みなら」
男キャラよりは女キャラの方が良いけど、と思いつつ
実際の彼は男で、彼が操る女キャラに惹かれていく事には、若干の背徳感もあった。
「どっちにしたって、中身はオレですから」
「なら、ネカマにして貰おうかな」
「良いですよ」
「その方が、2人でいても、自然だしね」

次の日から、俺たちは新たな旅に出た。
装備も貧弱で、魔法も殆ど使えない。
でも、互いに信頼できるパートナーに支えられている。
それがこのゲームで最も大切なものなんだと、改めて実感した。

□ 19_再誕 □   
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

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Re:

S.キ/ン/グの原作で『ミ/ザ/リー』っていう怖い映画がありました。ミザリーという名前で思わず思い出しました。

ところで、ゲームの中で指輪をあげるなんて、洒落ている♪
しかも、質素な指輪で良いというのがいじらしい!
その辺の女より、余程女らしい。
少なくとも私より女らしい(笑)。
婚約指輪が夫の母親の御下がりのダイヤモンドだった時、顔で笑って心で怒ってましたからね、私は(笑)。

指輪が持つ意味

Misallyと言う単語には、悪い方向に組み合わせる、と言う意味があるのだそうです。
去年良く流れていた洋楽のタイトルから、語呂が良いと思って取っただけなのですが
何か意味ありげで、結果良かったかなと思っています。

数多くあるアクセサリーの中で、やはり指輪が持つ意味って言うのは特別なんですね。
しかも、着けるほどに感情が篭って行くものだとも思うので
まっさらなものが欲しいと思われる気持ちは、良く分かります。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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