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規律★(6/9)

おかしくなっていたのは、俺も同じかも知れない。
その夜、俺は同僚で抜いた。
俺のフェラで快楽を得ている顔じゃなく、俺の身体を玩んでいる表情と、あの言葉で。
背徳感と罪悪感に塗れた、今までとは違う性質の昂りがクセになりそうだった。

自分自身、気が付かない振りをしていただけなのか。
岩井は同僚で、コンビで仕事をする間柄で、しかもノンケのはず。
一番手を出してはいけない相手なのは、嫌と言うほど分かっている。
俺がゲイであると言うことを知ったヤツの心情の変化は、言葉の端々に感じられた。
仕方が無いと思っても、何処かで傷ついた自分もいた。
それなのに、ヤツからのアプローチに、嫌悪感と共に満足感があったのも確かだった。
何処かで期待してしまう自分がいる。
俺の拒絶をこじ開けてくる程の、ヤツの欲望を。


役所の件も一段落した、その週の金曜日。
別件の見積資料を眺めていたところに、岩井から電話が入る。
「お疲れ。どうした?」
「悪いんだけど、今から出てこれるか?」
「何かあったのか?」
「アシダが、妙な見積もり出してきてるらしいんだ」
アシダ、と言うのはうちの同業他社になる浸透桝メーカー。
エコだのサスティナブルだの騒がれているこのご時世
商業的なアピールの為に、雨水の再利用や浸透装置などの需要も徐々に伸びてきている。
件のアシダ工業は後発ながら、そのシェアを拡大しつつある会社だ。
「うちの客だろ?」
「強引に営業かけてるらしいんだよ。これだけ安くなります、って」
基本オーダーメイドで製作される商品だけに、価格に大きな差が出るのはおかしい。
何処かで誤魔化しているとしか思えなかった。
「その場じゃ、ざっくりした金額しか出せないぞ」
「それで良い。桁が違うって言ってるから、まともじゃない」

荷物をまとめて会社を出て、客先の最寄り駅で岩井と合流する。
「建物は?」
「特養だ。敷地面積は5000m2ってとこだな」
「結構でかいな」
「全面浸透地域らしいから、浸透桝、浸透管、ろ過桝と貯留槽が要る」

訪れた設計事務所で、改めて図面とライバル会社の見積書を確認する。
からくりは、すぐに分かった。
「これじゃ、浸透すら出来ないですよ」
まず、圧倒的に浸透装置が足りない。
そして、ろ過桝から貯留槽への配管分も計上されていなかった。
「貯留槽がピット利用としても、これだけの金額は最低でもかかると思います」
改めて、概算金額を提示する。
「やっぱり、そうですよねぇ」
設計の担当者は金額を見て、苦笑しながら答えた。
「詳細な金額が必要でしたら、来週中にはお出し出来ますが」
「じゃ、お願いできますか」

事務所を出る頃には、日はすっかり暮れていた。
「何だ、あの見積り。あんな適当な仕事でやってけんのかね」
「どうせVEで真っ先に削られると思って、端から少なく見積もってるのかもな」
「自分の仕事、否定するようなことして、どうするんだよって」
俺は少なからず、自分の仕事にはプライドを持って望んでいるつもりだ。
だからこそ、小手先で誤魔化そうとしている仕事に腹が立った。
「ま、そんな腹立てんなって。結局うちに回ってきたんだから」
そんな俺をなだめるのは、いつも岩井の役目だ。
「お前のお陰だよ、ホント、助かった」


駅へ向かう道すがら。
あまり立ち寄ることの無い場所だけあって、周りの風景につい目が行く。
「飯でも食ってくか?」
「良いね」
酒が弱い岩井は、決して "飲みに行こう" とは言わない。
俺は程ほどイケる口ではあるが、ヤツと行く場合は、あまり飲まないようにしている。
遠慮するなとは言われるけれど、何となく悪い気がしてしまう。

適当に入ったのは、アジアンダイニング、との看板を掲げている店だった。
「いくらアジアが広いって言ってもね・・・」
メニューを見た岩井が、そうぼやく。
中華料理・韓国料理・東南アジア料理からインドカレー、果てはトルコ料理まで
ありとあらゆる雑多な料理が並べられている。
食べあわせを気にしていては、いつまでも注文できない気がして
一先ず目に付いたものを頼んでみる。
「食えなかったら、頼む」
「ガキみたいなこと、言ってんなよ」

飲み物は、敢えて冒険しないつもりだった。
「・・・何、それ?」
「ラッシー」
「飯食いながら、よく、そんなの飲めるな」
「オレからしてみれば、ビール飲みながら飯食うってのも違和感あるけど」
「いや、普通だろ」
そう言いつつ、俺は酸味と甘味が混ざり合った妙な味のエビを、ビールで流し込んだ。
次は、サトウキビの酒でも頼んでみようか、そんな気分になる。

腹が一杯になったのか、慣れない酒で酔いが早く回ったのか。
1時間もすると、食べ疲れてくる。
ふと岩井が席を外し、戻って来た時には眼鏡をかけてきていた。
「大分お疲れみたいだな」
「まぁな」
そう言ったヤツは、頬杖をついて、何かを考えているようだった。
詮索されているような視線に、居心地が悪くなる。
「お前さぁ」
何を話そうとしているのか、予想がついた。
「・・・ここで話すようなことか?」
「じゃ、何処で話せるんだよ?」
「何が聞きたいんだ?」
「お前のこと、いろいろ」
ヤツの目があまりに真剣で、俺は思わず視線を逸らす。
その表情に表れていたのは、好奇心だけではなかった。

二人っきりになれる場所、と言うのは案外少ないんだな、と思う。
カップルならいざ知らず、男二人じゃ、その場所はますます絞られる。
「・・・俺んちと、お前んち、どっちが良い?」
「じゃ、お前んち」

□ 18_規律★ □   
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コメント

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メチャクチャにしてやりたいと言った相手なのに同じ部屋に入る、つまり、靴を脱ぐって事は、同意したって事ですよね。
普通、そう解釈されます。
栗原は半年前に彼氏と別れて今はフリーだけど、岩井も現在彼女がイナイんでしょうかねぇ?
案外、簡単に誘うから(笑)。既に、栗原に惹かれているから!?

今回、題名にどう繋がるんでしょうね?

同性との浮気

異性のパートナーがいるのに、同性に浮気をするって言うのは
どういうもんなんだろうと考えることがあります。
浮気された方にしてみれば、異性(自分とは同性)であれば
まだ努力次第で勝ち目はありそうですが
異性にはどう頑張ってもなれない、勝ち目は無い。
残酷な行為だなと、思ったりします。

タイトルの意味、今回は本文に僅かながら欠片を散りばめております。
上手く繋がると良いのですが・・・。
Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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