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規律★(2/9)

「打合せって、設計事務所じゃねぇの?」
「役所の人間が、どんなものか聞きたいんだとさ」
月曜日、訪れたのは千葉にある役所の分室だった。
土地が余っているとは言えない地域にも拘らず、広い敷地に平屋の建物。
敷地の半分は緑地、と言うよりも林になっている。

設計事務所の担当者は、既に建物の入口で待っていた。
「荒木設計の川内と申します」
そう言って、スーツ姿の彼女は頭を下げる。
「こちらは、設計担当の栗原です」
「宜しくお願いします」
岩井に紹介してもらい、一先ず名刺交換を済ませる。
「役所の担当さんは、ま、何処でも同じですが、理屈っぽい方なので・・・」
川内さんは困ったような表情で、そう話しかけてくる。
喋りが苦手だから設計職になったようなもんなのに
そんな相手に設計提案しなきゃいけないと思うと、気分が重くなった。

流石役所、と言ったところだろうか。
設計よりも何よりも、突っ込まれたのは価格の点だった。
新設だからイニシャルコストもそれなりにかかる。
ランニングコストについては、雨水集水の面積が多いことからメリットはあるが
そもそも、自動潅水装置が必要なのか、そんなことにまで言及される。

「ホントに入れる気あるのかね?」
役所を後にし、川内さんと別れると、そんな言葉が自然と出た。
「でも、他の物件よりは手ごたえあった気がするけど」
「営業から見ると、そんなもんか」
「まぁな。持ち上げるだけ持ち上げといて、結局止めました、なんてよくある話だ」
岩井は、笑いながら時計を確認する。
「オレ、このまま次の客先行って来るわ」
「気をつけてな」


役所からの注文は、何年でイニシャルコストがペイできるか、と言うものだった。
それを、装置の規模のパターンに分けて算出して欲しいとのこと。
難しくは無いが、面倒な作業だ。
幾つかの雑用をこなしながら、計算の準備を進めていると、岩井から電話が入る。
時計は既に、夜の7時を回っていた。
「助かった、まだいたか」
「どうした?」
「ちょっと、ミスった」

いつも冷静な岩井が、焦った表情をして帰社したのは1時間後のことだった。
「前にやった横浜のショッピングモールなんだけど」
岩井の手には、以前提出した計算書。
「数字、間違ってたみたいで」
「え、マジで・・・」
「オレの、指示ミスだ」
そう言って、唇を噛む。
「これ、明後日までに出せるか?」
敷地面積が広いだけあって、計算にも時間がかかる。
資料にするとしても、3日は欲しいところだ。
「オレも、出来るところは手伝うから」
一つ幸いなことは、明日が祝日だと言うこと。
「おかしいと思わなかった俺にも責任あるからな。今日は夜通し付き合えよ?」
「恩に着る」


晩飯を食うことも無く作業し続け、そろそろ0時を回ると言う頃。
岩井がおもむろに、目から何かを取り出す。
「あれ、お前コンタクトだっけ?」
「そ。使い捨てだから、夜は外してるんだよ」
机の引き出しからケースを取り出し、細いシルバーフレームの眼鏡をかける。
「やっぱ、眼鏡の方が楽だわ」
「そういうもんかね」
「目に張り付いた感じで、どうしても好きになれないんだよな」
椅子を軋ませながら背伸びをするヤツを見て、不意に気持ちが昂る。

普段の岩井を見ても何も感じないのに
眼鏡をかけて、少し疲れた表情が、ツボに入ってしまったのだろうか。
会社の同僚、しかもノンケのヤツに、一瞬でも欲情するなんて最悪だ。
「ちょっと、トイレ」
「おう」
とりあえず、トイレで抜いてくれば、気分も落ち着くだろう。
とは言え、同じフロアのトイレに行くのも気が引ける。
そう思い、階段を下りた。

下のフロアは人気も無く、誘導灯の光だけが道しるべだった。
トイレの照明は人感センサーで点く様になっていて、俺が入ると明るくなる。
一番奥のブースに入って、モノに手をかける。
適当に、最近見たゲイビデオの映像を思い出して、扱く手に力を込めた。
会社のトイレでしていると言う異常な状況も手伝って、あまり時間はかからなさそうだった。
その瞬間、ふと岩井の顔が浮かぶ。
急に絶頂が迫ってきた。
どうして、そう思いながら、俺は果てる。
便器の中に落ちていく精液を見ながら、同僚で抜いた、と言う酷い罪悪感に苛まれた。

□ 18_規律★ □
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コメント

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最近のコンタクトって痛くないんでしょうか?使用してないから、分からないけれど…。
コンタクトを薦めている眼科医が、自分は眼鏡なのは何故だと思う?って内科医に言われて、ハッとした事あります(笑)。

仕事でコンビを組む相手に欲情してしまって、もう以前と同じではいられないはず!
どうなるんでしょう?

最悪な相手

コンタクトは物と人によって、装用感がまちまちだと思います。
私はどうしても合わないので、免許更新の時くらいしか着けません。

会社関係の人間は、欲情する相手としては最悪としか言いようが無いですね。
もっとも、そんな対象になる人間に巡り合うのは幸せかも知れませんが。
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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