官公庁がひしめき合うこの街で働くようになって、もうじき5年経つ。
中堅ゼネコンの設計部署なんて、自分にはハードルが高いと思っていたけれど
必死に喰らい付いている内に、やっと身の丈が合うようになってきた。
激務であることは確かで、土日にまともに休めたのは、まだ数えるほど。
身体の疲れは感じても、精神的につぶれないのは、やっぱり充実しているからだろうか。

「佐藤君、町田の物件なんだけど」
平田課長から声がかかる。
採用の面接でとかく目を掛けてくれた、オレの恩人とも言える人だ。
「電気は新規の事務所に任せようと思ってるんだけど、どうかな」

町田の商業施設は、担当している物件の一つ。
規模はそれほど大きくないが、市の施設やフィットネスなど、種々の業種が入っている。
うちの会社にも電気設備の部署はあるが
大きな案件を抱えていて手が足りないと言うことで、事務所を探していたようだった。

「どんな事務所なんですか？」
「話を聞く限りでは、商業施設を多くやっているようだよ」
「この物件には、丁度良いですね」
候補の事務所は幾つかあったようだが
営業の熱意と、何よりも値段が安かったことが決め手になったらしい。
仕事が無くても、社員の人件費は無くならない。
それなら、安くても仕事を取ろう、そんなところだろうか。

「来週の月曜日に担当が改めて挨拶に来るらしいから、対応してくれるかな」
「わかりました」
「設計担当の人は、ずいぶん珍しい苗字だよ」
そう言って、名刺を2枚手渡される。
営業と設計の2人分だ。
設計担当の名前を見て、全身が凍りつく。
その苗字は、オレが絶対に忘れられないものだった。


今の会社に入る前のこと。
新卒で就職に失敗したオレは、技術系の派遣会社で派遣社員として働いていた。
建築学部を出ていたこともあり、派遣先は建設会社が多く
CADや設計補助など、色々な仕事をやってきた。
概ね3ヶ月から半年で派遣先が変わる為、繁忙期のヘルプという意味合いが強い。

そんな中、あるゼネコンの子会社に派遣されることになった。
業務内容は設計補助とあったが、実際は客先との折衝や打ち合わせまでやらされた。
明らかに契約違反だったけれど、ある程度責任を持たされ、やりがいも感じていた。
そこにいたのが、久須美という主任だった。

初めのうちは愛想良く接してきていたが、そつなく仕事をこなす様が気に入らないのか
徐々に、風当たりが強くなってきた。
「お前の代わりなんて、幾らでもいるからな」
それが彼の口癖だった。
よく言われる言葉ではあったが、派遣社員を凹ませるには最適なフレーズだ。
仕事は充実していたけれど、精神的には毎日少しずつ削られているような感覚だった。

担当していた物件が一段落し、そろそろ契約の期間が迫ってきていた時期。
派遣先の上司からは慰留を求められ、更に半年契約期間を延長と言う話になっていた。
久須美主任は、それを聞いて反対の声をあげていたと言う。
契約延長になれば、当然単価も上がる。
派遣社員に払う金は最低限で良い、そう話していたらしい。
経営者に言われるならまだしも、只の社員に言われるのは腑に落ちなかった。
けれど、彼は社員、オレは派遣社員。
この立場の違いは、大きい。

残業をこなし、遅い時間に退社したある日。
会社の裏口で煙草を吸っていた久須美主任と鉢合わせした。
お疲れ様です、と目を合わさずに通り過ぎようとした時。
「お前、契約延長する気じゃないだろうな」
腕を掴まれ、そう凄まれる。
「会社の意向もありますから」
延長することはほぼ決まっていたが、明確な答えを口にすることは避けた。

「俺、お前のこと嫌いなんだよね」
言われなくても分かっていることを、わざわざ口に出す。
「派遣のくせに、分かった風に仕事してるところがさ」
「そう言うつもりはありませんが」
じりじりと壁際に押しやられる。
彼は、持っていた煙草をオレの顔の前に近づけた。
猛烈な熱を感じ、わずかに前髪が焼ける臭いが鼻を突く。
「やめて下さい」
手を振り払おうとした瞬間、顔をつかまれ、左目とこめかみの間に煙草を押し付けられる。
激痛に、思わず声を上げた。
「さっさと、出て行け」
顔を押さえ、壁にもたれかかるオレに、彼はそう捨て台詞を残して去っていった。
どうしてオレが、こんな目に会わなきゃならないんだ。

しばらく、左目の眼帯は外れなかった。
結局、契約を延長することは無く、オレはその会社を去った。
最後の日の久須美主任の顔は、明らかに勝ち誇ったような顔をしており
自分がされたことを思い出しながら、何て醜い顔だ、と思っていた。
あの人は、自分より立場の弱いものを苛める事で、満足感を得ているのだろう。
そう思い込まないと、心が壊れてしまいそうだった。

この出来事が、転職活動をするきっかけになったのだと思う。
火傷の跡は消えそうにも無かったので
なるべく目立たないよう、黒いフレームの眼鏡をかけるようになった。
皮肉なことに、あの会社での仕事が興味を引いたらしく
オレは、今の会社に採用されることとなる。

□ 08_象徴★ □　　　
■ 1 ■　　　■ 2 ■　　　■ 3 ■　　　■ 4 ■　　　■ 5 ■　　　
>>> 小説一覧 <<<

全て忘れようと努力してきたものが、1枚の名刺で蘇る。
トラウマのように残った恐怖と、復讐心。
それらを抑えて、冷静に仕事を進めることが出来るのか、不安だった。

「設計の佐藤さん宛に、上原電気設備の久須美様がいらっしゃってますが」
下の警備室からそう連絡が来たのは、夜も7時を回ってからだった。
オレの都合でこの時間になったのだけれど、それで良いと言ってきたのは先方だ。
「12階の打合室まで来るよう、お伝えください」
首から提げたIDを胸ポケットにしまい、オレは打合室へ向かう。

ここの打合室は、以前はオープンスペースだったが
昨今の情報漏えい問題への危機意識から、パーティションで仕切られるようになった。
可動式だから大人数でも対応できるが、そんな光景はまだ見たことが無い。

全ての意識を振り払うように、ドアを開ける。
「お世話になります」
そう言って、彼は立ち上がる。
「上原電気設備設計の久須美と申します。宜しくお願い致します」
数年前と比べれば多少雰囲気は変わっているが、紛れも無く、本人だ。
「設計を担当してます、佐藤と申します」
名刺を渡しても、彼は何か気付く風も無く、普通にテーブルの上へ置く。
平凡な苗字で良かった、そんなことを思う。

一通り、物件の概要を説明する。
今日は直接設計にかかわる打合せではないと言うことだったので
あまり詳細は詰めず、電力会社との協議や、機械設備・消防設備との連携など
主だったところの話で終わらせた。

「今回は、それほど規模も大きくありませんので、金額的にも無理を言ってしまいましたが」
「いえ、今後ともムトウ建設さんのお仕事が出来るよう、頑張りますので」
こんな殊勝なことも言えるのか。
「小さい事務所ですので、大手のゼネコンさんの物件が出来るだけ、助かります」
彼の表情に、僅かな不安が見て取れた。
あの時とは違う。
立場は、オレの方が上だ、そう実感した。
心の闇に仕舞われていたものが、次第に顔を出す。

「珍しいお名前ですよね、久須美さんって」
「ええ、良く言われます。印象に残るようなので、そう言う意味では便利ですね」
「私は平凡な苗字ですので、憧れますよ」
思ってもいない事を言ってみる。
目頭を押さえる振りをして、度の入っていない眼鏡を外す。
ゆっくり顔を上げ、彼を見る。
彼はオレの顔を見て、やっと気がついたらしかった。
「覚えてますか。この傷」
固まった彼の表情を見て、心の底から楽しくなる。
「お久しぶりですね。久須美、主任」


「どうして、君が、ここに？」
よっぽど驚いたのか、上手くろれつが回っていない。
「あれから色々ありまして」
何か信じられないものでも見るような目だ。
「おかげ様で、こちらに転職できたんですよ」
「そ、そう」
俺は席を立ち、彼の側に立つ。
「あの時は、本当にお世話になりました。勉強になりましたよ。いろいろと」
彼に渡した自分の名刺を手に取り、眺める。
「この物件、本当に担当なされます？」
「どういう・・・」
「私のこと、心底嫌ってましたもんねぇ」
複雑な表情を浮かべる彼を見下ろす。
「私情挟まれて適当に仕事されたんじゃ、こっちも困るんですよ」
大人気ない、そう思いつつ、つい口に出た。
「お宅の替わりは、幾らでもいますから」
彼は唇をかみ締め、資料を睨みつける。

しばらくの沈黙を置いて、目を伏せた彼は言う。
「誠心誠意、やらせていただきますので、どうかうちに」
「そうですか」
「担当が気に入らないようであれば、私以外の者が受け持ちますし」
「私は良いですよ、あなたで」
前屈みになり、彼の耳元で囁く。
「精々頑張って下さいね」
歯を食いしばり、拳を握り締める彼を眺める気分は、爽快だった。
以前の彼なら、既にオレは殴られていただろう。
でも、今は違う。
彼の立場がそれを許さないことを、彼も、オレも知っている。

□ 08_象徴★ □　　　
■ 1 ■　　　■ 2 ■　　　■ 3 ■　　　■ 4 ■　　　■ 5 ■　　　
>>> 小説一覧 <<<

小さく舌打ちをする音が聞こえた。
それをきっかけに、何かのスイッチが入ったのかも知れない。
座っている彼のネクタイを掴み上げ、顔を近づけた。
「何か、ご不満でも？」
「べ、別に・・・」
首が絞まり苦しいのか、息絶え絶えに言葉を発する。
オレの腕を振り払おうと、彼の手が腕にかかった。
「抵抗するんですか？」
「手を・・・離せ」
口の端が自然に上がる。
掴んだままのネクタイをそのまま、力任せに横へ引っ張る。
バランスを崩し、肩から床に落ちた彼の胸元を踏みつけた。
「・・・元請けだからって、こんなことが、許されると思ってるのか」
「あなたが昔してきたことに比べれば、可愛いものだと思いますけどね」
床に転がる図体の大きな男を見下ろす。
これから、こいつを、どうしてやろうか。

起き上がろうとする彼の腹を、思い切り蹴りつける。
若干先の尖った革靴が、めり込む感覚が気持ち良い。
痛みに耐えているのか、彼は腹を押さえて身を縮める。
「こんなことで、私の気が済むとは思ってませんよね？」
彼は鋭い眼光で、オレを見上げた。
「私が味わった気分、あなたにも味わってもらいますよ」
彼の憎しみの表情が、一瞬怯えに変わる。
オレの顔には、それだけ、復讐心が表れていたのかも知れない。

「立って下さい」
彼は机に手をかけ、フラフラと立ち上がる。
それを見計らうように、再度みぞおちを殴りつけた。
短い声を上げて、崩れるように椅子に座り込む。
「何を・・・」
「言ったでしょう」
痛みにもがく彼の後ろに回り、腕を自分のネクタイで縛り上げ
彼のネクタイを外し、口を塞ぐように結ぶ。
抵抗しようとしているのか、椅子が揺れ、床にぶつかる音が響く。
「あんまり騒がないで下さいよ。こんな格好、見られたく無いでしょ？」
抵抗が、少し止む。
「私の気が済むまで、付き合って貰いますよ」
きっと顔は、満面の笑みだったに違いない。

オレは彼の後ろに座り、足を絡ませて両足を開かせる。
興奮を抑えながら、ワイシャツのボタンを上から外していく。
唾を飲み込む音が微かに聞こえ、身体の小刻みな震えを感じる。
観念したのか、抵抗の機会を伺っているのかは、まだ分からなかった。
手がベルトにかかると、彼は首を振り、抵抗しだす。
そんなものはお構い無しにベルトを外し、ジッパーを下げ、モノを引きずり出す。
嘲笑を浮かべるオレに向けられた視線は、憎悪そのものだった。
「憎たらしい派遣社員に、こんなことされるのはどんな気分ですか？」
ゆっくりと、モノを弄る。
相変わらず、彼は身体をゆすり、何とか逃れようとしている。

「この辺は、どうですかね」
はだけたワイシャツを後ろに引っ張り、背中から首筋に掛け、わざと音を立てて愛撫する。
思わぬ感覚だったのか、彼はビクッと身体を振るわせた。
そのまま首から耳へ、舌を滑らせる。
女性の顔と違い、ザラザラとした触感が何とも言えなかったが
彼の羞恥心を煽るには、覿面の効果があったようだ。
モノを握る手に、確かな反応があった。
「耳なんか、感じるんですか？」
耳たぶを軽く噛み、耳の後ろを舌先で舐めながら、そう呟く。
「こっち、明らかに硬くなって来てますよ」
軽く扱きながら、その反応を楽しむ。
彼の首を振る仕草も、段々弱まってきた。

シャツの中に手を入れ、腹や胸をまさぐると、意外に筋肉質であることが分かる。
腹筋の辺りからヘソ、わき腹と、ゆっくりと手を動かす。
爪を立てると、彼は小さく反応した。
「結構、良い身体してるんですね。しかも、敏感だ」
歯を食いしばっているのか、小さな歯軋りが聞こえる。
乳首の辺りを触ると、反応はより明確になった。
指で挟みこむように、弄る。
彼の目は、閉じられていた。
顔は俯き、その刺激に堪えているようだった。

先端から染みて来ている液体で、扱く手も滑らかになってきた。
彼の喉の奥から、くぐもった声が小さく響く。
「客先の打合室で、こんなにしちゃって、恥ずかしくないんですか？」
睨みつけているつもりなのだろうが、覇気は無かった。
羞恥と憎悪と懇願の入り混じった、オレの気分を高揚させてくれる表情だった。
扱く速度を上げながら、時折、先端を摘むように弄る。
彼の背中が小刻みに震え、絶頂が近いことを悟る。

不意に手を止め、彼の口からネクタイを外す。
大きなため息をつき、弱弱しい声で、彼は言った。
「こんなことして・・・只で済むと思うな」
「どうするんですか？元請けの社員の男に、こんなことされましたって言うんですか？」
そう言って、彼のモノを指で弾く。
突然の刺激に、短い喘ぎ声を上げる。
「私がされたことより、よっぽど良いと思いますけど」
彼のネクタイで、今度は視界を奪う。
「気持ち良くさせて貰ってるでしょう？・・・私は、痛いだけでしたよ」

□ 08_象徴★ □　　　
■ 1 ■　　　■ 2 ■　　　■ 3 ■　　　■ 4 ■　　　■ 5 ■　　　
>>> 小説一覧 <<<

携帯を取り出して打合せテーブルに置き、半勃ちになったモノを再度、弄りだす。
唇を噛み、必死に声をこらえているのが分かる。
「さっきの声、もう一回聞かせて下さいよ」
うなじの部分を甘噛みすると、一瞬口元が緩む。
その隙に、指を喉の奥まで押し込んだ。
苦しそうにむせる声と共に、上ずった喘ぎが漏れる。
「可愛い声じゃないですか。久須美さん」
鼻で笑いながら、耳元で囁いた。
親指で上の歯を押さえつけ、悲鳴に近い声を楽しむ。
歯が指に食い込む痛みさえ、オレの中では快感だった。

寸前で、手を止める。
口の中から手を抜き、携帯を取る。
「良い画が撮れたみたいですよ」
彼に向かって、動画を再生した。
恥辱の声が、小さなスピーカーを通して部屋の中に響く。
彼は何も言わず、ただ肩を震わせていた。
胸ポケットからハンカチを取り出し、モノに巻きつける。
「ご自分の声を聞きながら、イクってのはどうですか」
そのまま激しく扱き上げると、彼はすぐに絶頂を迎えた。


拘束を解いても、椅子から立ち上がる気力は無かったようだった。
そんな彼を、見下ろす。
最高の気分だった。
しばらくして、彼は自分の身なりを整えながら、言った。
「これで・・・気が済んだか」
オレは、何も答えなかった。
「どうしたらいい」
初めて見る、彼の打ちひしがれた姿だった。
支配欲が掻き立てられる。
「次の打合せは、今週の金曜日で宜しいですか？お時間は追ってご連絡しますので」
そう答えながら、打合室のドアを開けた。
「お待ちしてますよ」


その週の金曜日。
彼は再び、あの打合室にやってきた。
ただし、今度は同じ会社の若い社員を連れて。
「久須美と一緒に物件を担当致します、富澤と申します」
オレと全く目を合わそうとしない彼を傍目に、設計の具体的な打合せを進める。
と言っても、引き込みや照明配置、想定される特殊な機器についての話くらいで
後は、東電協議や各設備での連携についての話に終始した。
全体工程の話に入る頃、彼の携帯が鳴る。
失礼、と言って、部屋を出て行った。

「久須美さん、顔色悪いようですけど、どうかされたんですか」
雑談ついでに聞いてみる。
「風邪だって言ってましたが、大丈夫だと思います」
「そうですか。工期も短いんで、頑張って頂かないと」
打合せのスタートが遅かったこともあり、時計を見ると、既に8時を回っていた。
「富澤さんは、お住まいはどちらの方なんですか」
「私は、阿佐ヶ谷に」
「ああ、じゃあ方向は同じですね。私は高円寺なんで」
彼が戻ってくる気配を感じ、オレはわざと携帯を開いてテーブルに置く。

戻ってきた彼は、オレの携帯を見て顔色を変えた。
「では、本日のところは、この辺りで」
そう言って、テーブルの上の資料を片付ける。
「富澤さん、私も今日は帰るので、途中まで一緒にどうですか」
彼に視線を送りながら、笑みを浮かべて若い社員に話しかける。
ええ、と言う後輩を遮り、彼はオレを睨みながら言った。
「佐藤さんと、少し話があるから。君は先に帰ってくれ」
不穏な雰囲気を感じたのか、失礼します、と言って、富澤さんは出て行った。

「話ってなんでしょう？」
「あいつは関係ないだろう？」
「何のことですか」
彼は、後輩の身を案じているようだった。
「私は、あなたにしか興味ありませんよ」
怪訝な顔をして、オレを見る。
「もっとも、彼があなたの子飼いだって言うなら、価値はありますけどね」
携帯を弄りながら、彼の顔色を窺う。
「・・・その機会はいつでも作れますよ？」
「俺と、君の問題だろう？」
明らかに焦りの表情が見えた。

オレが立ち上がると、彼は警戒心を露にする。
「彼を先に帰したのは・・・先日の続きでもご所望ですか？」
「ふざけるな」
「あなたの態度一つで、あなたと彼と、あなたの会社の今後が決まると思いますよ」
彼の後輩には、何の恨みも無い。
けれど、こんなヤツを飼っている会社は、同罪だ。
「君は、何をしたいんだ」
何も言わず、窓辺に立つ。
カーテンウォールで構成されている窓は、天井から一面に下がっていて
下の腰壁にはペリメータ用の空調機が納まっている。
「ここに、立って。窓に手をついて下さい」

□ 08_象徴★ □　　　
■ 1 ■　　　■ 2 ■　　　■ 3 ■　　　■ 4 ■　　　■ 5 ■　
>>> 小説一覧 <<<

彼は黙ってそれに従った。
目には諦めの感情が表れていた。
後ろから抱きしめるように、ゆっくりと身体をまさぐる。
徐々に下へ手を伸ばし、ベルトに手をかける。
「抵抗しないんですね」
「したって・・・無駄なんだろう？」
「殊勝な心がけです」
ベルトを外し、ズボンを下着ごと太もも辺りまで下げる。
彼の下半身が露になって、窓に映りこんだ。

下を向き、口を真一文字に閉じて耐える彼に、絶え間なく愛撫を続ける。
手は彼のモノを捉え、柔らかな先端部分を撫でる。
「顔を上げて。感じてるところ、見せて下さいよ」
従順に、彼は顔を上げる。
眉間に皺を寄せ、必死に快感に耐えている顔。
もっと、歪ませてやりたい、そんな気分になる。

「今日は、新しい快感を教えてあげますよ」
そう言って、オレはポケットに刺さっているペンを抜く。
所作の気配を感じたのか、身体がこわばる。
「何を・・・」
本来ありえないところへの挿入に、心底恐怖を感じているらしい。
窓越しにオレを見る彼の表情には、懇願しかなかった。
ペンを尻の割れ目に沿わせ、ゆっくりと下げていく。
彼の首筋に、鳥肌が立つのが見えた。
一瞬間をおいて、穴に挿入する。
その違和感に、彼は声を上げた。
浅く抜き差ししながら、捻るようにペンを回す。
「ペンに犯される気分はどうですか？久須美さん」
手を添えただけの彼のモノが、自ら波打つのを感じる。
瞑った彼の目の端から、汗とも涙とも取れる水が流れ落ちた。

程なくすると、彼の腰が浮いてくる。
モノは今にも破裂しそうなほど、張り詰めていた。
「こっちもしっかり感じるんですね」
ペンを半分ほど押し込むと、喉の奥から悲鳴をあげ
その刺激と痛みからか、彼の上半身は窓にもたれかかるように、崩れる。
「今度は、アナルセックスでもしましょうか？」
嘲笑しながら、そう問いかける。
彼は小さく首を振るのが、やっとだったようだ。
穴に差し込まれたペンをそのままに、モノを扱く手を速める。
窓に映る彼の無様な姿が、オレを激しく興奮させた。

やがて、彼は果て、精液が窓を汚す。
上半身の力が抜け、腰壁に肘をつき、膝立ちの格好になった。
その彼の頭を掴み、窓に押し付ける。
「汚しちゃダメじゃないですか。ちゃんと、綺麗にして下さいね」
うつろな目で窓を見つめ、彼は、自分の放出した液体を舐め取り始める。
刺さったままになっていた自分のペンを抜き取ると、小さく声を出す。
彼を見下ろしながら、昂揚を抑えられなかった。

窓が概ね綺麗になったところで、彼の腕を掴み、立ち上がらせる。
以前の彼の姿は、そこには無かった。
「次も、楽しませて下さいね」
彼の身なりを整えながら、オレは笑いかける。
「・・・いつまで、続けるつもりなんだ」
彼は力なく、そう呟く。
「あなたが壊れるか、私が飽きるか、どちらかまで、ですよ」
こんな楽しい時間、手放すつもりは毛頭無い。

「そうだ、これ、差し上げますよ」
そう言って、オレは自分のワイシャツに付けたカフスボタンを片方だけ手渡す。
「私と会う時には、これを着けて来て下さいね」
掌の上を、彼はしばらく見つめていた。
「・・・オレに逆らおうなんて、思うなよ」
そう耳元で囁くと、彼はカフスの意味を理解したようだった。
わかりました、そう残し、彼は部屋から出て行く。


それ以降、しばらく彼と会う機会は無かったが
仕事も大詰めの時期、最終確認と称しての打合せが行われた。
電気だけではなく、機械や消火の設備系と意匠を含めての大人数でのもの。
その場には、彼も現れた。
彼のワイシャツには、片方の腕にだけカフスが付けられていた。
服従の象徴。
かつて、彼が抱いた満足感は、こういうものだったんだろうか。
そう思いながら、オレは席に着いた。

□ 08_象徴★ □　　　
■ 1 ■　　　■ 2 ■　　　■ 3 ■　　　■ 4 ■　　　■ 5 ■　　　
>>> 小説一覧 <<<