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慙愧★(1/6)

夢から覚めた車の中。
傾げた顔が近づいて来て、唇が触れ合う。
冷め遣らない熱が、口の中に入り込んで来る舌を通して身体を刺激する。
吐息と共に絡み合う感触を楽しんでいると、彼の手が静かに上半身を這って行く。
「・・・オレのこと、嫌い?」
耳をくすぐる囁きと共に、その手は徐々に下へ降りる。
「どうして?」
「ボロボロにヤられるオレを見て・・・」
昂ぶる部分に指が触れ、気分がざわついた。
「こんなに、なってる」

他人に見られ、凌辱されることに興奮を覚える彼。
その光景に、狂おしく乱れる自分の心と身体。
二人だけの秘めた関係を続けるようになってから、もう半年以上が経つ。
偶然の出会いも運命だったと思いたくなるほど、日を増す毎に彼へ傾倒していく自分が怖くなる。

スラックスの上からモノを撫でながら、彼は自らの頬を俺の頬に擦り付ける。
切なげな目が、フロントガラスの向こうの闇に泳いでいた。
「逆だよ。大切に思っているからこそ・・・」
その肩に腕を回し、身体を引き寄せる。
「辛くて、惨めで・・・おかしくなりそうなくらい、興奮するんだ」

こんな性癖に気が付いたのは、ある一つの、最悪な出来事がきっかけだった。
幸せの絶頂から転がり落ちた闇。
それでも、その中を漂う方が心地良く感じられているのは
きっと自分が、元来そう言う人間だったからなのだろう。

***********************************

『この週末も会え無さそう?』
そんなメールを貰った木曜日の夜。
3ヶ月前に婚約をしたにも関わらず、直後任された大きな案件で激務の毎日を過ごし
婚約者である亜由美とは、顔を合わせるのすら難しい状況が続いていた。
入籍を前に同棲をと考えたこともあったけれど、それをも実行に移すことが出来ないままで日々が過ぎる。

不機嫌な声を聞いていれば、こっちの気分まで荒んで来る。
俺が悪い訳でも無いのに、どうして俺が責められなきゃならないんだ。
あまりな理不尽な日常に、時間は作るもの、そんな言葉を作った人間を恨めしく思うようにもなった。
夜遅く家に帰ると、無意識の内に携帯電話の電源を切ってしまう。
生きて行く為に必要最低限の人間関係の中で収まっていたい。
自分の気持ちの中で、彼女は、それに含まれていなかったのかも知れない。


夜に入っていた打ち合わせを客先でドタキャンされた日。
会社に戻るのもバカらしく、そのまま自宅へを足を向けた。
突然降って湧いた余暇に何をする気にもならず、ぼんやりとPCの画面を眺める。

自分の性癖を交際している相手にぶつけることが出来るのは、ホンの一握りの男だけだろう。
液晶画面に映るのは、複数の男に蹂躙される女の姿。
そのシチュエーションが、自分の変質的な欲求を目覚めさせて行く。
作り物然した雰囲気に何処か安心しながら、興奮を少しずつ身体に沁みこませた。

『独身最後の記念です☆婚約者にも了解済み♪』
ありがちなキャプションに、嫌な予感を感じる事無くリンクを辿る。
安物のメイド服にアイマスク姿の女は、ファーの付いた手錠を後ろ手に着けられベッドに座っていた。
そこにやって来る、三人の男。
一人が彼女の身体を背後から抱え、えげつないキスを迫る。
他の男は思い思いにその手を身体に滑らせ、無駄な抵抗を見せる姿を楽しんでいた。

映像に対して違和感を持ち始めるまで、大した時間はかからなかった。
想像を超えた現実の気配を、俺はどうして途中で止められなかったのか。
組み敷かれ、玩具で責められる度に上がる嬌声。
見も知らない男の手で快楽を刻まれる身体。
あられもない痴態を晒す女が、俺を待っているはずの婚約者であることを確信したのは
男に跨り、そのモノを自らに沈めて行く段になってからだった。


待たせた俺が悪かったのか。
待つことに疲れ、自らの性欲に素直に従った彼女が悪かったのか。
意味も無く流れて行く映像を視界に収めながら、そんな考えは無駄だと結論付ける。
屈辱から憤慨、そして諦観へ。
激しく動揺する心と同調するように、身体が昂ぶる。
輪姦される婚約者の姿で、俺は身体を慰めた。
絶頂を迎えた時、きっと笑っていたに違いない。
そして、精液と共に吹き出されたのは、慈しみの気持ち。


あれから2週間ほど経ち、やっと週末にまとまった休みが取れる機会を得た。
「今度の土日、ちょっと旅行でも行かないか」
俺の方から切り出した話に、彼女は素直に応じる。
結婚への期待と喜びを滲ませる口調に、罪悪感は一切なかった。

宿泊場所に選んだのは、郊外のリゾート地。
足首までを隠す長いスカートに、控えめに胸元が開いたカットソー。
その上に薄いモスグリーンのカーディガンを羽織った彼女が、助手席で笑う。
引き裂かれたメイド服を纏い喘ぐ姿は、微塵も感じさせない。
互いに違う方向を見据えながら、夕暮れの中、車は目的地を目指す。

□ 38_夢路★ □ ※露出・凌辱表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 60_慙愧★ □
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慙愧★(2/6)

涼やかな風を送りながら揺れる木々に囲まれた、小さなコテージ。
プライベートな空間を演出しますとの宣伝文句通り、周囲に人の気配は全く感じなかった。
彼女を先に室内へ促してドアを閉めると共に、一通のメールを送る。

1階部分には、大きめのソファとテレビ、冬用と思われる暖炉が置かれていた。
「こっちがベッドルームみたい」
無邪気に笑いながらロフトへと上がって行く彼女の後ろをついて行く。
天井が幾分低いものの、きちんと部屋の体をなしている空間には、キングサイズのベッドがあった。
「よく取れたね、こんな所」
「穴場らしくて。同僚から聞いたんだよ」
感触を確かめるようベッドに座る彼女の隣に腰を掛ける。
上目遣いの視線を見届けてから、その上半身をベッドに押し沈めた。

唇を触れ合わせながら、彼女の身体に手を這わせていく。
スカートをたくし上げようとする手に、彼女の手が触れた。
「・・・いきなり?」
「ダメ?」
形だけの抵抗に、気分が逆撫でされるようだった。
答を待っているのが煩わしい。
有無を言わせないままで、滑らかな素足を擦り上げて行く。


「今日はさ、ちょっと、違うことしない?」
紅潮する頬に唇を寄せながら、囁いた。
「違う、ことって?」
ベッドの隅に置かれていた二組のバスローブが目に入る。
綺麗に結ばれたベルトを手に取り、彼女の顔の前に差し出す。
「例えば・・・」
怯え方にそれほどの強さを感じないのは、俺への信頼か、その後に待つことへの期待か。
一本になったベルトを、その眼を覆うように頭に巻きつける。
視界を奪われた彼女は、唇を震わせながら、甘い吐息を漏らす。
「こう言うの、どう?」
「どう、って・・・」
程よい大きさの胸を優しく揉む掌に、その突端の感触がリアルに感じられる。
「目隠しされただけで、感じやすくなるんだ?」
指で軽く摘むと、小さく身体が跳ねた。
「やっ・・・ちが、う・・・よ」

上半身を起こし、腕を後ろ手に組ませる。
ややきつめに腕を縛り、背後からカットソーをたくし上げた。
「どうしたの・・・」
「何が?」
「怖いよ、今日の、克秋」
得体の知れない男に身体を差し出すより、俺に性癖を晒す方が怖いのか。
それなら、もっと上手く、隠し通しておいて欲しかった。

ブラジャーの中から、乳房を外に出す。
強調された膨らみの先で、尖った乳首が刺激を待ち侘びているように見えた。
「俺は、亜由美の方が怖いな」
二つの突起を指で摘み、引っ張り上げる。
「いやっ・・・」
「こんなことされて、こんなになって」
指を捻る度に彼女の身体は左右に揺れる。
それを押さえる様に、脚の間に自分の足を入れ、股を開かせた。
スカートの中に手を入れ、秘部を指でなぞる。
湿った下着の感触が、彼女の裏の顔を引き摺り出している過程を知らしめた。
「もう、準備万端だね」
わざとらしく明るい声で呟いたタイミングで、階下のドアが開く音がした。


「な・・・に、誰?」
小柄な肢体が急激に強張る。
「心配無いよ」
縋るように身体を摺り寄せてくる彼女をベッドに残したまま、傍を離れた。
「良い記念になるんじゃないかな」
ヘッドボードに助けを求めるように身を縮めて怯える婚約者を見やりながら、吐き捨てる。
「俺たちの、最後の、記念に」

階段を上がって来たのは、皆一様に、如何にも普通の男たちだった。
俺より年上らしき中年の眼鏡の男は、俺に一瞬視線を向け、ベッドの上の獲物を凝視する。
「ホシノ、さん?」
その後ろから覗きこむように話しかけてくる若い男。
「そう」
最後に階段を上がって来た男は、大きな荷物をベッドの脇で早速広げ始める。

「何しても良いって?」
「身体に傷つけるのと、中出しさえしなきゃ、ね」
俺の言葉を鼻で笑い飛ばした中年の男は、ベッドに乗り、彼女の脚を捉えた。
「だってさ。酷い男だよな」
「何っ?嫌っ!」
胸を露わにしたままで、彼女は必死な、けれども無駄な抵抗を見せる。
ベッドの中心辺りまで引き摺られた身体を、若い男の手が滑って行く。
「でもさぁ、輪姦されてる動画見たけど、すっごい気持ち良さそうだったよねぇ」
軽い口調の言葉に、彼女は言葉を失う。
「あれは・・・」
複数の手に擦られ、その刺激に身体を揺らす姿を、まるで作り物かの様な気分で眺めた。
「寂しかったから・・・克秋が、構って、くれないから」
この期に及んで言い訳しか出ないのか。
虚しい嘲笑が、悲鳴と喘ぎの中に消えて行った。

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慙愧★(3/6)

「あんたは、良いの?」
壁に寄りかかり、見知らぬ男たちに組み敷かれる婚約者を眺める俺に、一人の男が声を掛けてくる。
穏やかそうな見かけに反し、その手には赤いロープといかがわしい玩具。
「俺は見てるだけで、良い」
既に興奮しているのだろう紅潮した顔が、俺の言葉に怪訝な表情を映す。
「・・・結婚、するんだろ?」
「まさか」
「どうすんだよ、あの娘」
「俺が知るかよ」


壁際に置かれたスツールに座り、地獄のような光景を眺めていた。
視界を覆われたまま服をはぎ取られ、赤いロープで装飾が施されて行く身体。
抵抗を示す言葉は徐々に喘ぎに変わる。
玩具で性感帯を責められながら、男たちのモノを代わる代わる口に含む。
耳に入るのは、男たちの昂ぶった声と、彼女の嬌声。
それしか無い空間が酷く息苦しくて、眩暈がしそうになる。

中年の男のモノが、彼女の中へ沈んでいく。
割れるような声を上げた後、深い吐息をつく女。
腰をゆっくり動かしながら、男の手が乳首とクリトリスに付けられたチェーンを引っ張り上げると
引きつったような悲鳴が部屋に響いた。
「気持ち良すぎて、声にもならない?」
笑いながらそう言う若い男は、彼女の手を自分のモノに促し、扱かせる。
首筋から耳の裏を丁寧に舐りながら、もう一人の男が呟いた。
「気持ち良いって言ってごらん?そうすれば、もっと気持ち良くなるよ?」

下半身がぶつかり合う度に、男の背中の筋肉が激しく陰影を作る。
全てを受け止め、快楽に湿るその身体は、確かに俺のものだったはずなのに。
「きも、ち・・・いぃ」
「ん?もっと気持ち良くなるか?」
「も、っと・・・もっと、してぇ」
屈辱に打ちのめされそうになりながら、それなのに、その現実が身体を狂わせる。


我をも忘れると言う女の快楽を羨ましいと思ったことは、一度や二度じゃない。
四つん這いになった彼女の前後から、男のモノがその身体を弄ぶ。
自らモノにむしゃぶりつく姿は、もう、俺の知る婚約者の姿ではなかった。
「美味しい?アユミちゃん」
「ん・・・おいし・・・」
口で快楽を愉しむ男が、その目を覆うベルトに手をかける。
「彼氏にも、そう言ってあげな」
細い布がベッドに落ち、彼女はモノを口に含んだままで俺に目を向けた。
混乱しているのか、反応は鈍かった。
「・・・やっ」
彼女の唇が震えると同時に、背後の男の動きが早くなる。
「すっげ締まり、良くなったぞ」
「や、っあ・・・見な、い、で」
眼前の男の腰に抱きついたままで刺激に耐える姿に、不意に興奮が駆けた。
「ずっと・・・見てたよ。君だけを、見てた」

絶望をも掻き消す快感なのか。
それとも、こんなことは、もう、どうでも良いことなのか。
俺が階段を下り、トイレに入る頃には、再び淫らな声が室内に充満していた。
ドアを閉め、鍵をかけ、便座に腰かける。
僅かに聞こえて来るくぐもった声を聞きながら、自分を慰め始める。
虚しすぎる絶頂。
程なく便器の中に吹き出された精液は、希望と共に、水流に巻き込まれて行った。


夜明け前、満足した表情の男たちはコテージを出て行く。
手元に残ったのは、幾らかの金と、快楽に溺れきった女の身体。
精液に塗れ唖然とする彼女の上に、一枚一枚、札を並べて行く。
震えながら向かって来る手を避けるように、ベッドから離れた。
「それで、帰んな。フロントからタクシー呼べるから」
声も無く、その眼から涙が零れる。
俺の心に響くには、あまりにも遠い光景だった。


恋愛が生活の中を占めるウェイトは、自分が思っていた以上に大きかったのだろう。
最悪な幕引きを迎えてから2週間。
相変わらず忙しい日々の中で、仕事に対する意欲が目に見えて減っていることに気が付いた。
こんなに無理して働くことに、何の意味がある?
最も考えてはいけない思考に、心が支配されていくようだった。
つまらないミスを重ねても、その呪縛からはなかなか逃れられない。
何も考えられないまま、流されるままに仕事に没頭出来ていたことは、幸せだったのかも知れない。

致命的な失敗を回避するのは、マネジメントの基本。
俺を呼んだ上司の目は、何処か憐憫の情を含んでいたように思う。
「こうなる前に、お前のことを、もっと考えてやれば良かったな」
彼はそう言葉を付け加え、他の部署への辞令を言い渡した。

建設業も兼ねる大手のデベロッパー。
社内では花形と言われていた企画部から
子会社である不動産会社の各店舗を地域ごとに管理する総括営業部へ。
都落ちと揶揄する声も、影では囁かれていたのだろう。
前の部署よりも遥かに自由になった時間。
生活サイクルが歪む中で、荒みきった自分が堕ちて行くのが見えた。

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慙愧★(4/6)

担当エリアの店舗を何店か回り、適当に時間を潰して会社に戻る。
つまらない仕事だと思っていたのは最初の内だけだった。
ぬるま湯にどっぷり浸かった日常。
いろんなものが詰め込まれていた頭の中に隙間が出来て行く感覚が、妙に気持ち良い。


営業途中、時間潰しに入った鄙びた映画館。
効き過ぎた冷房に震えながら向かったトイレで、異様な光景を目にした。
ブースから出て来た二人の男。
一方の男がワイシャツにスラックスと言う姿で首輪に繋がれ、後ろに立つ大柄な男に頭を掴まれている。
気味の悪さと恐怖が先に立ち、見て見ぬ振りをしたまま急ぎ用を済ます俺に
品の無い野太い声が掛けられた。
「ちょっと頼みがあるんだけどな」
顔を背けたまま、身なりを整える。
「ほら、お前からもちゃんとお願いしろよ」
「俺、そう言うの興味無いから」
自動水栓の反応の遅さにイライラしながら、鏡に向かって言葉を吐いた。
震える息が狭い空間に響き、耳に届く。
「・・・殴って、下さい」
喪失感の滲む声に、思わず歩みを止めた。

「こんな時間に、こんなとこで油売ってるぐらいだから、ロクな仕事してねぇんだろ?」
嘲り笑うような表情で、ガタイの良い男は手元の身体を俺の方へ突き放す。
「こいつ殴って、ストレス発散して行きなよ」
よろけながら俺に近づいて来る、痩せた中年の男。
不意に鎖を引っ張られて仰け反る上半身が、眼前に映った。
怯えた眼が俺を真っ直ぐに見ている。
俺より、どのくらい年上だろう。
家族はいるんだろうか。
絡みつくような訴えを振り払うように思案を巡らせてみたけれど、徒労だった。
少しネクタイを緩め、右側の袖を一回だけ折り返す。
軽く息を吐き、彼を視界に収めた。

拳に残る彼の顔の熱と感触、そして骨に響く痛み。
短い呻き声を上げて左に倒れるその身体に、再び拳をめり込ませる。
膝が折れ、崩れ落ちそうになっても尚、彼の目は執拗に俺の気分を煽って来た。
両手で肩を掴み、腹を膝で蹴り上げると、その拍子に口から噴き出た血がワイシャツに染みを残す。
そのまま胸の辺りを足で突き、床に押し倒した。
荒い息を吐きながら唇を震わせる男の姿に、薄っぺらな優越感が顔を出してくる。
自分より惨めな人間を蔑んで溜飲を下げる。
今の俺には、これが、ふさわしいのかも知れない。

背後で愉快そうに眺めていた男が、しゃがみこみ、震える身体の股間を弄る。
「おら、もっと殴って貰えよ」
スラックスの中に僅かに窺える怒張の気配。
「ボコボコにされて、おっ勃てる変態でね。そうだろ?」
そんなものの片棒担ぐなんて、冗談じゃない。
男が小さく頷きながら起き上ろうとする光景に、直前浮かんだ理性が蹴散らされる。
上半身を靴で踏みつけ、その顔を見下ろした。
「・・・勝手に起き上ってんじゃねぇ」

薄汚れた塩ビシートの床に、赤黒い筋が無数に付けられて行く。
躊躇いを感じなくなるまで、それほどの時間はかからなかったと思う。
殺してしまったら、そんな杞憂も、屈折した自尊心がくすぐられる快感に流される。
抵抗を見せない身体を、ひたすらに殴り、蹴り上げ続けた。


いわゆるハッテン場であると言う噂を知らなかった訳じゃ無い。
もちろん、男との性交渉を目的に来る人間もいたが
一方で、自分の異質な性癖を解消する為にやって来る者もいる。
殴られることで勃起する男、拘束された状態で罵られることに恍惚とする男。
加虐心が満たされたところで、性欲発散には繋がらなかったけれど
ロクでもない毎日が、誰かを嘲り笑うことで何となく様になって行く。
その異常な時の流れに、すっかり迷い込んでしまっていたのだと思う。


梅雨明け宣言を待つだけとなった7月のある日。
一番後ろの座席でスクリーンを眺めていた俺の視界に、一人のサラリーマンの姿が映った。
ほの暗い光に照らされた顔は、つまらなさそうな覇気の無いもの。
外回り中の営業マンか何かだろう、そう思っていた時、背後から声を掛けられる。
「あのリーマン、ちょっと良い感じなんだけど」
相変わらず下品な声が、興奮気味の息遣いで更に不快に聞こえた。
「だから?」
「一緒に可愛がってやんね?」
「興味無いから」
「拳で打ちのめすのと、変わんねぇよ」
鼻で笑う声が、耳を掠る。
「屈辱に塗れた男の顔を踏みつけんのが好きなんだろ?あんたは」

かつて屈辱の中で感じた身体の昂ぶり。
そして、同じ屈辱を味わわせることで満足する感情。
紙一重なのかも知れない。
どっちにしたって、異常なことには変わりないけれど。


警戒心の欠片も無く座席に身を任せる彼の後ろに、わざと音を立てて座る。
その身体が、僅かに強張ったように見えた。
首に腕を回し、口を塞ぎながら、仰け反らせるように自分の方へ引き寄せる。
「お兄さん、こう言うの、興味ある?」
耳元でそう囁くと、息を飲む音が聞こえた。
降って湧いた不幸に、彼の身体は小刻みに震えだす。
表情に若さを滲ませるサラリーマンは、怯えた眼を俺に向け、意味の無い抵抗を見せた。

座席の周囲に、俄かに人が集まりだす。
哀れな生贄となった男は、身を捩りながら仕打ちに喘ぐ。
「真面目にお仕事しないとダメだな」
うなじに舌を這わせると、震える唇から漏れる吐息が掌を湿らせた。

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慙愧★(5/6)

たまたま目を付けられただけ。
そんな一人の男が、自らの性癖に気づかされていく。
周囲の視線を一身に浴びながら、身体の昂ぶりを抑えられない気分は、どんなものなのか。
透けて見える程の彼の絶望に、俺の心まで熱くなる。

彼のモノを口に含んでいた男が、卑しい笑みを浮かべて彼に話しかける。
「兄ちゃんのオナニー、見せてよ」
ほぼ半裸にされた男は、モノに促された自らの手を動かすことも出来ないまま、固まっていた。
「恥ずかしい格好見られるの、嫌いじゃないみたいだし」
自制心の縁に立たされた彼の背を、軽く押す。
口に当てていた手を離すと、吐息が指に纏わりついた。
「・・・見て欲しいんだろ?」

あられも無い姿で自らを慰める男と、それを見て興奮を隠しきれない男たち。
まるでそこだけ隔離されたかのような空間は、むせ返るような生臭い空気に覆われている。
固く閉じられた瞼とは対照的に、露骨な反応を見せる彼の身体。
次々と周りの男が欲求を発散する中、最後に絶頂を迎えた彼は、糸が切れたように座席に沈み込んだ。

満足げな顔をした男たちが、散り散りに闇へ消えて行く。
未だ呆然としている彼の前にポケットティッシュを差し出した。
しばらくして我に返ったのか、おぼつかない動きでそれを手にし、自らの体液を拭っていく。
僅かに振り返った彼は、夢見心地の視線を俺に投げる。
そこにあったのは、欲望の蓋を開け放ってほしいと言う懇願だったのだろうか。
頭を抱えるように腕を回し、囁いた。
「もっと面白い夢、見せてあげようか?」

同じような刺激を求め、再びここに足を踏み入れても、同じように満足できるとは限らない。
男たちに良いように弄ばれ、ヤり捨てられるのが関の山だ。
それならいっそ、自分の手でどん底まで突き落としてやりたい。
そして、その顔を、踏みにじってやりたい。
醜い自分と共に。


初めて彼を外に誘い出したのは、それから2週間も経たない週末の真夜中だった。
特に会話も無い中、車は郊外の公園を目指す。
会社から帰って間もなかったのであろう彼は、ワイシャツ姿のまま、緩めたネクタイを弄っている。
「落ち着かない?」
その言葉に、彼はゆっくりと頷いた。
「俺は、楽しみでしょうがないよ」
「・・・え?」
「どんな君が見られるのか、楽しみで、しょうがない」

車の影が殆ど無い駐車場の端に、車を停める。
怪訝な顔をする彼に、外へ出るように促した。
助手席側のドアの傍に立つ彼に後ろを向かせ、その手首に持って来た革手錠をかける。
「な、に・・・?」
「散歩でも、しようと思ってね」
振り返ろうとする頭を押さえ、首に首輪を巻き付けていく。
「でも、只の散歩じゃつまらないから」
鎖を引くと、上半身が仰け反り、苦しげな喘ぎが闇に溶けた。
「面白そうな物、いろいろ持って来てみたんだよ」

車に寄りかかり、背後から抱き締めるような形で彼の身体に手を伸ばす。
ネクタイを解き、ワイシャツの前を開けた上半身を弄ると、荒い鼻息が吹き出る。
Tシャツの中に手を差し入れ、幾分汗ばんだ肌の感触を確かめた。
鼓動が早くなるのを感じながら、シャツをたくし上げて上半身を露わにする。
「あそこからじゃ、見えないかな」
駐車場の向こうの幹線道路には、少ないながら車が通っている。
ヘッドライトが近くの建物を照らして過ぎて行く度に、彼の身体は微かに慄いた。

手にした安い作りの物で、小さな突起を挟み込む。
「・・・く」
おまけでぶら下がる小さな鈴が、湿気を帯びた微風で些細な音を立てる。
「痛い?それとも、恥ずかしい?」
左右に揺れる首を、そこに繋がる鎖で制する。
「恥ずかしいよね、こんな格好してるんだから」
指で鈴を弾くと、甲高い音が空に響いた。
「もっと、恥ずかしくなりたいだろ?」
手を下半身へと下ろしていくと、その腰が引ける。
スラックス越しに感じられる昂ぶり。
耳元を滑る俺の嘲笑が、彼の羞恥心を煽ったのか。
上向かされた顔が歪み、苦しげな息が吐き出される。
ファスナーを下ろして手を差し入れ、服の中で悶々としているモノを引き摺り出した。
「ほら」
硬さを帯び始めた部分を指で摘み、見せつけるように引き伸ばす。
「・・・っあ」
潤んだ熱視線が、俺の顔を捉える。
辱めを求める声なき声が、半開きの唇から聞こえるようだった。
「じゃ、行こうか」


誰もいないはずの公園に風の悪戯がざわついた雰囲気を広げていく中、彼の後ろをついて行く。
時折、手にした鎖が引っ張られる感覚で、その抗いを知らされる。
「ちゃんと、前、見て」
金属の綱を引き、悪足掻きが無駄であることを身体に刻みつけた。
アスファルトを引き摺るような足音と、昂ぶった息遣いが、葉擦れのさざめきに掻き消される。
先方の闇に引き込まれているのか、彼が振り返ることは無かった。

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慙愧★(6/6)

駐車場から反時計回りに外周の道を進む。
どのくらい歩いただろう。
木立に割り込むように、外灯に照らされた一角が見えてきた。
そこはかとなく感じられる、人の気配。
時間はもう夜中の1時を回った辺り。
まともじゃない類の物であることは、明白だった。

先に動いたのは向こうだった。
こちらへ向かって来る二人の男の姿に、彼は身体を固まらせる。
その肩を抱き寄せ、こめかみ辺りにそっと口づけた。
「大丈夫、心配いらないよ」
身体に目を滑らせると、微かに震える息遣いとは裏腹に、屹立したモノが存在を主張する。
明確な畏怖と浅ましい本能が入り混じる彼の心の中は、どんな状態になっているのだろう。
そんなことを考えながら、男たちを待ち構えた。

「犬の散歩か?」
俺よりも若干背の低い、けれど体格の良い男は、下衆な感情をまるで隠さずに声を掛けてくる。
軽く差し出された手を避けるよう、鎖を引いて彼を遠ざけた。
「だったら?」
「少し遊ばせろよ」
大男の後ろから顔を覗かせる痩せた坊主頭が、懐中の男を一心に見つめている。
「頭撫でるだけじゃ、満足しないんだろ?」
俺の言葉を鼻で笑い飛ばした顔は、酷く醜かった。
「啼き声くらい、聞かせてくれたって良いんじゃね?」
縋る様な彼の視線の先に、卑しい男の姿。
屈辱に飲み込まれていく、あの時の気分が、不意に顔を出した。
彼の身体を地面に押し付け、膝立ちにさせる。
見上げる眼差しを一瞬だけ受け止め、目を逸らした。
「心の広い飼い主さんに、感謝、だな」


苦しげな呻き声が、鎖を通して微かに響いてくる。
頭を掴まれ、男のモノを口に捻じ込まれた彼の身体が、激しく揺さぶられている。
鈴の音を引き摺る上半身には、もう一人の男が舌を這わせていた。
「すげー、気持ち良さそう」
指で乳首を甚振るクリップを引っ張りながら、胸から腹にかけてしつこい愛撫を続ける。
「涎、ダラダラ」
独り言のように呟き、やがて痩せた男はいきり立つ彼のモノに舌を付けた。
木に寄りかかる様な体勢で仕打ちに耐える彼の身体が跳ねる。
男の唾液と、彼の汁が混ざり合った液体が、糸を引きながら地面に落ちていく。
「なかなか、良い、啼き声じゃ、ねぇか」
快楽に歪んだ顔を見せる男が、そう笑う。
刺激を求め膨れ上がっていた彼のモノが、男の口に沈み込む。
すぐ傍で、けれど一人蚊帳の外にいる俺には、その光景が、まるで作り物のように見えた。

恥辱の森にもたらされた昂ぶりは、如何ほどだったのか。
自らの口を塞ぐほどの怒張よりも先に解放されたのは、彼の身体だった。
吹き出された精液を、まるで美味なる物のように舐める地表の男。
顕著に大きくなる苦しげな声。
絶頂を迎えたことで蘇った理性が、未だ続く狼藉に再び壊されていく様子が窺える。
高鳴る鈴音が男の上ずった声に被り、同調するようにけたたましくなった。
瞬間抜き取られたモノから吐き出された液体が、彼の顔を汚す。
「う・・・あ」
儚げな声を上げながら、彼の身体は俺の脚に寄りかかるように倒れた。


外灯の下にある水場で、彼に付けられた凌辱の跡を洗い流す。
震えの止まない身体をベンチに座らせ、抱き寄せた。
薄い光に照らされた表情は恐怖を生む程に虚ろで、当て所なく振れる手を握り締める。
包まれるだけだったその手に力が込められたのは、どのくらい経ってからだろう。
顔を覗き込んだ俺に、彼は落ち着かない視線を送った。
解き放たれた純粋な欲望に困惑していたのかも知れない。

その絶望が、俺の快楽の糧のはずだった。
その手を離して踏みにじってやりたいと思っていたはずだったのに、出来なかった。
破滅させる悦びよりも、掻き毟るような焦燥感に悶える快感が勝っていたのだろう。
「・・・離さないで」
白み始めた空を見上げながら聞いたその声に、俺は囚われたのだと思う。

***********************************

彼の舌が、俺のモノを柔らかく舐っていく。
その髪を撫でるように、動きを促す。
素直に言うことを聞き入れてくれる身体が、下半身により深く入り込む。
じっくりと丁寧に根元から舐め上げられる快楽に、身体はなす術も無く浮かされた。

不意に動きが止まり、彼の吐いた溜め息がモノに纏わりつく。
「いつも、怖いんだ」
「え?」
「あんな、ことされて・・・それでも、気持ち良くて、堪らなくて」
彼はモノを手に取り、静かに扱きながら、頬を上半身に寄せる。
「いつか、オレのこと、嫌いになるんじゃないかって」

大切なものが汚される辛苦、憑かれたように高まる性欲。
彼とじゃなきゃ、この悦びは得られない。
顎に手を寄せ、唇を求める。
「大丈夫・・・手離したりしないから」
「ずっと、オレのこと、見ててくれる?」
「見てるよ。いつでも、君だけを見てる」
穏やかに微笑む彼は、何度も唇を重ね、再び下半身へ顔を埋めていく。
頭の中で屈辱に塗れた時間を思い起こしながら、捻れた快感に身を委ねた。

□ 38_夢路★ □ ※露出・凌辱表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
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□ 60_慙愧★ □
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まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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