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表裏-罪-★(1/5)

毎朝、何本の川を渡るだろう。
電車の窓から見える風景は、穏やかだったり、荒れていたり。
気分が引き摺られることも、少なくない。
今日は、晴天の空に江戸川が青く流れ、水面がキラキラと細かな光を放っている。
それなのに、気持ちは、沈んだままだ。


「すみません、遅くなりまして」
会社とは、山手線で真逆に位置する駅の改札。
二回り弱は離れているであろう男は、俺の顔を認め、静かな笑みを見せた。
「構わないよ。オレもさっき着いたところだから」
そう言いながら歩き出す彼に、微妙な距離を持ってついて行く。

一つしかない改札の南側に広がる小さな歓楽街。
古びたテナントビルが立ち並ぶこの街は、あらゆる風俗店が身を隠して営業している。
林立するラブホテルも、売春、援助交際、同性愛者と、間口が広いところが多い。
そうやって、長年、生き永らえて来ているのだろう。

元は客と売り子の関係だった。
彼との間に金が絡まなくなってから、どのくらい経つだろう。
単身赴任で東京へ来ている彼は、週末になると家族が待つ長野へ帰る。
金曜の夜、それが彼と過ごすことが出来る、唯一の時間。
ただ、ここに介在するのは、快楽だけ。
俺が求める感情に応えて貰うことは、未だ出来ていない。

ホテルの部屋に入っても、キスをすることも、抱き締められることも無い。
「先に、シャワー浴びておいで」
それでも、まるで恋人に語りかけるような優しい口調。
セックスレスになってしまった夫婦関係を補填する存在だと、嫌と言うほど知らしめられているのに
ほだされてしまう感情が、情けない。
「ああ、これ」
思い出したかのように、彼から一つの器具を渡される。
「今日は、失神しちゃ、ダメだよ?」


初めて関係を持った時から、彼はアナルセックスを拒否していた。
男を求めていたのも、単に性欲を発散する為。
女にしなかったのは、足がついたり、不倫関係に陥ったりするのが面倒だからと話した。
金の為、そう割り切り、俺は彼の言うがまま、口で快楽を与え続けた。

彼が俺の身体に手を伸ばしてくるようになったのは、そんな奉仕を5、6回した頃だろうか。
お得意様としての存在は、徐々に焦がれる対象になっていく。
快感に身を震わせる彼の姿が、俺の身体を昂らせることを、止められなかった。
「しゃぶるだけじゃ、物足りなさそうだね」
絶頂を向かえ、紅潮した顔で微笑む彼は、ティッシュペーパーで余韻を拭き取る俺に、そう言った。
「そんなこと・・・ありません」
所在を失った視線が、宙を泳ぐ。
彼の手が、下着の中で興奮を隠しきれないモノに、僅かに触れた。
「ちょっと、面白そうな物持ってきたから、試してみようか」

話にはよく聞いていたが、実際に手にするのは初めてだった。
「医療器具だって言うけど、アダルトグッズみたいなもんなのかな」
バイブやディルドよりも遥かに小さな器具が、どんな刺激がもたらすのか想像もつかない。
やたら丁寧な取扱説明書には、直腸洗浄の仕方から挿入方法まで、事細かに書いてある。
「じゃ、とりあえず洗っておいで」
手にした物体にそぐわない笑みを浮かべ、彼は俺にそれを手渡した。


久しぶりに感じる、ローションの感覚。
ぎこちなく動く指が、それを穴の周りに広げていく。
「内視鏡よりも太いよね、これ」
肛門に異物を入れるという行為は、それしか思い当たらないのだろう。
四つん這いになった俺の尻を撫でながら、彼は幾分不安そうに呟いた。

先端が穴の入口に添えられ、押し広げるように捻りながら少しずつ中に入ってくる。
喉の奥から、思わず呻き声が出た。
「痛い?」
「・・・いえ、大丈夫、です」
これよりも太い物を入れられた経験は、何度もある。
それなのに、緊張からか、受け入れ方が思い出せない。
目を閉じて、意識をして力を抜く。
「これくらいかな」
異物感は、思ったよりも浅いところで止まった。
「しばらく置くと、前立腺が刺激されてくるって言うけど。本当かね」

快楽を待ち侘びる俺の姿が、興奮を呼んだのか。
彼は再び、自らのモノを俺の顔の前に差し出した。
「じっと待ってるのも、何だろ?」
昂揚した彼の顔を見上げ、軽く頷く。
ベッドに胡坐をかく彼の股間に顔を埋め、頭をもたげ始めた彼のモノに、舌を這わせた。

□ 44_表裏-罪-★ □
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□ 45_表裏-功- □
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表裏-罪-★(2/5)

頭上の彼が絶頂の声を上げる頃、俺の身体にさざ波が打ち寄せ始める。
今までに経験の無い感覚。
何が動いている訳でも、モノを弄っている訳でもないのに、足先が痺れるような刺激。
萎れたモノを手にしたまま、彼の身体に寄りかかるよう、身を沈めた。
「何か、来た?」
「・・・は、い」
肛門に力を入れると器具が中で微動し、その度に、違った刺激が襲う。
意図せずやって来る快楽に、身体が翻弄されていく。

顎に手を添えられ、上を向かされる。
歪んだ視界の先に、興奮を隠しきれない彼の顔があった。
「なかなか、そそられるね。その表情」
口を開いても、言葉にならない。
震える唇に、彼の指が滑り、やがて口の中へ入ってくる。
太腿にしがみつきながら、その指をしゃぶった。

自分の唾液で濡れた指が、首筋を撫で、上半身へ降りる。
これ以上の刺激を与えられるのが怖くて、つい、首を振った。
真意は伝わったはずだった。
「うっ・・・」
既に硬直していた乳首を、柔らかい感覚が纏う。
頭の先まで突き抜けるような快感。
彼の表情が俄かに変化を見せ、その指の動きが大きくなる。
下半身から広がる刺激は、徐々に全身へと広がっていく。
身体中が熱い。
快楽に打ち震えながら、視界がぼやけていく。
これが、おかしくなる感覚?
そんな冷静な思考は、瞬時に飛ばされた。
「もっと、声出して良いんだよ?」
何処か楽しげにそう言う彼の指が、右の乳首を摘む。
「そ、こは」
「気持ち良いんだろ?」
「や、め・・・て」
縋るように太腿にしがみつく俺の腕を払い除け、彼の手がベッドに沈む半身へ伸びる。
「どうなんだ?」
「う・・・あっ」
両方の乳首が引っ張られ、捻られる。
未体験の快楽への、ほんの僅かな抵抗が、霧散していく。
「・・・そ、こ・・・」
「もっと、か?」
「も、っと・・・し、て」

悦びの時間は、驚くほど長く続いた。
激しい動きをしていないにも拘らず、身体全体が疲労感に包まれ
終盤にやって来たオーガズムの波に、耐え切れなかったらしい。
「やっと、お目覚めかな」
気がつくと、俺は一人ベッドの上に寝かされており
側のソファに座り、煙草をくゆらせる彼は、興味深げに俺を見ていた。
「まさか、気を失うとは思わなかったな」
「すみません・・・こんなの、初めてで」
「まぁ、愉しみが一つ増えたから、良いけどね」
「え・・・?」
俺の疑問符に、彼は目を細めた笑みで答える。
それからしばらくして、俺は、彼との金銭の授受を止めた。


彼が持っているキャリーバッグは、週末の帰省用とは思えない程、大きい。
シャワーから出た俺を待っているのは、その中身の1/3を占める、いかがわしい器具。
ベッドに這いつくばる俺の身体は、手枷と一体になった首輪と、足枷で動きを封じられ
畏怖すら感じられる医療器具が、アナルの中へ沈み込む。
「楽しみに、待ってるんだよ?」
上機嫌で俺を見下ろす彼は、そう言ってユニットバスへ消えていく。
彼が戻る頃には、ベッドの上で身悶える俺の姿がある、そんな算段だ。

腰が徐々に浮き、自然に動いてくる。
尻を高く突き上げた格好で、刺激に溺れていく。
ベッドの軋む音が室内に虚しく響く中、満足そうな表情で男が戻って来た。
「今日は、もう一つ、君が喜びそうな物を持ってきたよ」
バスタオルを腰に巻いた格好で、彼はバッグから一本の鎖を取り出す。
俺の目は、期待で溢れていたのかも知れない。
片手でチャラチャラと鎖を弄りながら、彼は不敵な笑みを浮かべた。

鎖を引っ張られると同時に、彼のモノが喉の奥深くを突いて来る。
絶え間ない前立腺への刺激、千切れそうな程の乳首への痛み、気道を確保できない苦しさ。
この衝撃をどう纏めて良いのか分からないまま、身体がどんどん混乱していく。
「ほら、もっと吸い付けよ」
「んんっ」
「感じ過ぎて、訳分かんなくなってるのか?」
何にも抗えない。
彼が絶頂に達しても、そこから解放されることは無く、情け容赦無い快楽が心まで堕とす。
「は、あ・・・もう、取っ、て」
「まだ、イって無いだろ?」
「イか、なくて、良い・・・から」
胸から下がる鎖が勢い良く引っ張られ、拍子に向けた視線の先に、笑顔を浮かべた彼が映る。
「いっ・・・た」
「手伝ってやろうか?」
下半身に伸びてくる手の気配に、腰が引ける。
「や、だ・・・」
身体を包む快感とは違う種類の、よく知ったはずの刺激。
「たまには、出してイくのも、良いんじゃないか?」
勃ってもいないのに、先端からはだらしなく汁が垂れている。
軽く扱かれる度に、イきそうになる衝動が首筋を駆けた。
大きく開いた口から吐き出される熱い息が、握り締めた両手にかかる。
「ま、って・・・もっ、と、おか、しく・・・させて」

□ 44_表裏-罪-★ □
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□ 45_表裏-功- □
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表裏-罪-★(3/5)

「やっと、単身赴任が終わるんだよ」
先週末、彼は複雑な表情でそう告げた。
「だから、君とも、会えなくなる」
「そう・・・ですか」
引き留める手立ては、何も無い。
身も心も彼に絡め取られてしまっていた俺は、ただ、その場に立ち尽くすことしか出来なかった。
待ち合わせ時間が遅かったこともあって、人気もまばらな駅前の裏小路。
キャバクラの呼び込みの声が、ビルの合間で響いている。
「まだ若いんだから、オレみたいなオッサンに固執すること、無いんだよ」
「でも、俺は・・・」
「悪いけど、オレは君と違って、男に対して恋愛感情は持てない。それは、分かって欲しい」
聞きたくなかった、無慈悲な言葉。
分かり切っていたはずなのに、心に刺さる棘は、深かった。

スーツを脱いだ彼の後姿を見ながら、俺は一つの願いを口に出す。
「・・・最後に、抱き締めて、キスして、下さい」
振り向いた彼の顔は、神妙な面持ちだった。
「感情は、要りません。ただ、行為だけで、良いから」
軽く溜め息をついた彼は、腕を小さく広げる。
「おいで」
ゆっくりと近づいた俺の身体が、彼の腕に引き寄せられる。
ワイシャツの上から感じられる両腕の体温が、背中に沁み込んでいく。
顔を上げると、すぐ近くに彼の顔があった。
父親と言っても良いほどの、歳の差。
老いを感じさせる顔が、柔和な笑みを浮かべている。
一つ息を飲み、唇を触れ合わせた。
煙草の香りが鼻を抜けていく。
乾いた感触が、心も身体も熱くする。
「ありがとう、ございます」

いつもより少し小さめの荷物を持ち、彼は早朝、ホテルを出て行く。
「いつか、長野に遊びに来ると良いよ」
その言葉に、何も期待することは出来なかった。
携帯がプリペイドであることも、偽名を名乗っていたことも、知っていた。
行方を手繰り寄せる材料は、何も無い。
俺の心を全て持ち去った彼の姿と、唇の感触だけが、唯一つの拠り所だった。


「経理部長のこと、聞いたか?」
会社に着くなり声をかけてきたのは、同僚の室井だった。
「何?」
「会社の金、横領して逃げたって話なんだよ」
「マジで?いつ?」
「先週の金曜らしい」
フロアが何となくざわついているのは、そのせいだろうか。
「昨日発覚したらしくて、今、部課長連中含めた上役が緊急で会議してる」
「・・・どうなるんだ?」
「分からん。億単位らしいからな、持ってったの」
従業員1000人弱の電気工事専門の中堅サブコン。
経営にまで影響する額では無いかも知れないが、大事になるであろうことは、容易に想像がついた。
ただでさえ憂鬱な気分が、更に落ち込んでいく。

「京極君、ちょっと、良いかな」
騒然とする部署内で、上司の箕輪課長に声をかけられた。
呼び止められる心当たりも無いのに、その神妙な面持ちが顔を強張らせる。
「何でしょう?」
「経理の山城部長のことは、知ってるか?」
「横領したと言う話は、先ほど・・・」
「そうじゃなくて、面識はあるかって聞いてるんだ」
「いえ・・・無いと思います」
眼鏡の奥の眼が、俄かに細くなる。
不意に立ち上がった彼は、1冊のファイルを手に、フロアの端にある打合せ室に来るよう促した。

椅子に腰をかけた課長は、テーブルの上にファイルを投げ出した。
「君が、山城と一緒にいるところを見たって言う社員がいるんだよ」
「そう言われましても、心当たりが・・・」
手元に滑ってきたファイルを開ける。
中には、今回の横領事件の経緯と、山城部長の経歴書が入っていた。
角に貼られた小さな写真に、目を疑う。
「まさか・・・」
「どう言う関係なんだ」
「それは・・・」
「上が、君の関与を疑っていてな」
「そんなこと、してません。ウチの会社の人間だなんて・・・知りませんでした」
上司の溜め息が、空間に充満していく。
「設計と経理じゃ接点も無いし、顔を知らなくてもおかしく無いのは分かる」
「本当です。私は、何も」
「君の事は、信用してる。ただ、奴との間に何らかの関係があるのなら、疑いがかかるのも、仕方ない」
青天の霹靂。
この場を満たしている空気ですら、幻なんじゃないか、そんな気分になってくる。
「警察に届けを出す前に、上役が君と面談したいと言ってる」
「そんな・・・私は・・・」
「素直に話してくれば、疑いは晴れる。良いな?」

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表裏-罪-★(4/5)

こんな日を、人生で最悪の日、と言うんだろうか。
話したところで信じて貰えるはずも無いことは、大会議室に並んだ面子の態度で明らかだった。
それでも、俺は彼との関係を全て話した。
何処で出会い、どんな時間を過ごしたのか。
日の目を浴びる必要の無かった、裏の顔。
誰とも目を合わせることなく、ただ淡々と、言葉を並べた。
部屋を出る際に視界の端に入り込んだ、蔑むような、歪んだ表情。
エレベーターに向かうことも出来ず、非常階段の踊り場でしゃがみ込んだまま、動けなかった。

戻らない俺を探しに来たのは、箕輪課長だった。
「こんなところに、いたのか」
「・・・すみません、すぐ、戻ります」
上から、何らかの報告があったのだろう。
側に屈みこんだ彼は、俺の肩に手を乗せて、呟いた。
「すまんが、助けてやれそうに無い」

社内の人間で、彼と最後に会ったのは、俺だった。
身元を知らなかったとは言え、付き合いは一年近くも続いていた。
しかも、金銭の授受も、確かにあった。
ただ、疑いはあっても確証は無い。
罪には問わない代わりに、人員整理という名を冠した解雇の方針が決まったと言う。
「オレの同期で、設計事務所に移った奴がいる。そいつに、声、かけてみるつもりだから」
「最後まで・・・ご迷惑おかけします」
「悪いのは、君じゃない。それは、忘れるな」
「ありがとうございます・・・」

フロアに戻ると、室井が心配そうな顔で近づいて来る。
「何があったんだ?」
「別に・・・大したことじゃないんだ」
何処まで話が出回っているのか、分からない。
周りの人間が、好奇の目で自分を見ているような気分になってくる。
「リストラの、話」
「リストラ?お前が?」
「今回の事件で資金繰りがきつくなったから、人員整理をするんだってさ」
「他に辞めさせるような奴、幾らでもいるだろ?」
「上が決めたんだ、逆らえないよ」

入社して、5年目。
やっと一通りの設計もスムーズに出来るようになって来た。
今更、他の会社に行ったところで、役に立てるんだろうか。
崩れ落ちそうな心に、不安が圧し掛かる。
俺は、もう、ダメかも知れない。


糸が切れたような俺の様子は、誰の目にも明らかだったのだろう。
一部始終を知る上司は、定時で帰る様にと指示を出してきた。
逃げるように会社を後にする。
こんな時間に会社を出ることは、滅多に無い。
見慣れない景色に、孤独感が募る。
いつも乗る電車とは、違う路線に乗った。
向かったのは、昔一度だけ訪れたことのある、郊外の公園。

夜も6時を過ぎ、冬に差し掛かった公園はすっかり人の気配を失っている。
公衆便所の灯りだけが、違和感を覚えるほどに明るく見えた。
チカチカと点滅を繰り返す街灯の下のベンチに腰掛ける。
視界に映るのは、不気味に揺れる木々の影。
どのくらい経ってからだろう。
背後から近づいてくる人の気配。
「どうした、兄ちゃん。誰か、待ってんのか?」
振り返ることなく、その声に答える。
「・・・あんたを」
気配が、すぐそこまで迫る。
耳元に唇が滑り、興奮を忍ばせた吐息がかかった。
「ふ~ん・・・そう。そりゃ、奇遇だね」


喉の奥を突くモノは、その勢いを緩めること無く動き続ける。
前髪を掴まれ、ひたすら蹂躙される苦しさに、空虚な気分が満たされて行くようだった。
吐き気を催しそうになる程、身体が熱くなる。
卑しい笑みを浮かべながら奉仕を強要する男に、縋るような視線を投げた。
「口ん中犯されて、嬉しいのか?」
呻き声で、その問に答えると、動きは激しさを増していく。

自らのネクタイで両手の自由を奪われたまま、身障者用のトイレの床に膝立ちになる自分。
あの会議室の中に比べれば、惨めさは微塵も無い。
ぶれる頭を押さえるよう背後に立つ別の男の手が、ワイシャツの首周りから、服の中に入ってくる。
肩口を滑り、昂りを露わにした突起を指で擦る。
「すげぇ勃ってんじゃん」
より強い刺激を求めるように、身体を捩った。
その挙動が、男たちの興味をそそったのか。
無理矢理開かれたワイシャツから、幾つかのボタンが弾け飛んだ。
中に着ていたTシャツがたくし上げられ、上半身が空気に触れる。
「どうして欲しいんだ?ん?」
声を合図に、口を塞ぐいきり立ったモノが抜き取られていく。
痺れる唇が震え、性欲の味が混ざる唾液が口の端から垂れる。
「やらしい乳首してんな。相当弄られてるんだろ」
俺の前に立つ男が、前屈みになったままで乳首を指で弾く。
「う・・・」
「とんだ変態、掴まえたもんだな」
「ほら、ちゃんとねだってみろよ。変態らしく」
後ろの男が、そう耳元で囁く。
自尊心が邪魔をすることなく、下劣な欲求が口から出て行った。
「俺の恥ずかしい乳首、いっぱい、虐めて下さい」

□ 44_表裏-罪-★ □
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表裏-罪-★(5/5)

彼が残していったものは、絶望と喪失感。
そして、淫らに堕ちた身体と心。
何になる、こんなもの。
全て、忘れたい。
全て、失くしてしまいたい。


千切れそうなほど力を込めて引っ張られる双方の乳首。
歯を食いしばり、痛みに耐える。
「これが良いのか?」
歪む視界に、愉快そうに笑う男の顔が映る。
眉間の皺が深くなるにつれ、その指は捻り、潰すように刺激を変えていく。
声にならない掠れた悲鳴が、喉の奥からこぼれた。
背中まで突き抜けていく痛みが、けれど、下半身の昂りを押し出して来る。
「こいつで引っ張り上げるのはどうだ?」
もう一人の男が、何かを眼前の男に見せる。
「それなら、咥えさせたままでもいけるな」
下品な目が、俺を捕らえる。
その目に映る俺の目には、何が映っていたんだろう。

乳首に巻きつく、妙な感覚。
絞られるように輪ゴムで縛られた突起の姿が、痛みを快感に変えていく。
引っ張られ、手を離される。
「いっ・・・」
肌を弾く軽い音が、羞恥心をそそった。
喘ぐ度に、男たちの笑い声がトイレの中に響く。
何回も繰り返されるうちに、胸の辺りが段々と充血していき
快楽で虚ろになった意識が、目の前に下がるモノを求めた。
舌を出して顔を近づけると、男は輪ゴムを指にかけたまま、口元にそれを摺り寄せる。
「そんなにチンポが好きか?」
「す、き・・・しゃぶ、らせて」
鼻で笑いながら、男は幾分萎れたモノを口の中に押し込む。
その息苦しさが、堪らなかった。

背後の男の手が、下半身へと伸びていく。
スラックスのファスナーが開けられ、中からモノが引き摺り出される。
「うわ、もうベタベタじゃん」
先端を撫でられるだけで、腰が跳ねるほどの刺激が襲う。
「お、すげぇ、締まる」
悦びの声を上げる男の動きが、俄かに大きくなった。
「う・・・っん」
「イかさねぇ程度に、弄って、やれ」
突かれる衝撃音が聴覚の殆どを奪っている中、汁を垂れ流したモノから、卑猥な音が頭に響いてくる。
「じっくり焦らしてやるからな」
ガマン汁を擦り込まれる様に、ゆっくりをモノが扱かれる。
尻に添えられた手は、割れ目をなぞるように上下に動く。
前に立つ男は、腰の動きに呼応するように、乳首を引っ張り上げている。
溶けてしまいたい程の、快感。

男の野太い呻きが耳に届くと共に、口の中に精液が流し込まれる。
急激に気道が埋め尽くされ、軽く目眩がした。
強引に飲み込み、床に伏すように咽る俺を、背後の男が抱えるように身を起こさせる。
「オレは、こっちで愉しませて貰おうかな」
完全に勃起した俺のモノから手を離した奴は、俺を立たせ、壁に押し付けた。
ベルトが外され、スラックスが下着と共に強引に引き摺り下ろされる。
「何て言えば良いか、分かるだろ?」
冷たいタイルの感触が、辛うじて残る意識を呼び戻す。
どうなっても、いい。
いっそのこと、全て、ぶち壊して欲しい。
「・・・俺のケツの中、犯して、下さい」


公園のゴミ箱に、無残な状態になったワイシャツとネクタイを放り込む。
薄手のコートが無事だったのが、幸いだった。
それでも、夜風が痛む身体を冷やしていく。
行きずりの情事がもたらした満足感は、この瞬間、歩く糧にはなっていた。
けれど、明日を今日と同じように迎えられる程のものでは、無かった。

皮肉なことに、家路へ向かう電車に乗ったのは、いつも退社する時間とほぼ変わらなかった。
何かあったのか、妙に混雑した車内。
窓に映る暗い江戸川。
仄かな月明かりと電車の灯りを水面に映しながら、右往左往する波が細くうねる。
久しぶりに、気分が引き摺られていくようだった。

バラバラと電車から乗客が降りる。
それほど乗降客数は多くない、場末の駅。
ここを使うようになって、もう何年経ったんだろう。
昼間なら、ホームの端から川が見える。
もちろん、今は、視界の中に闇しかない。

不意に、明るい光が川の向こうに差す。
『まもなく特急電車が通過します。白線の内側までお下がり下さい』
橋を渡る重い音が、頭の中に響く。
徐々に近づいてくるヘッドライトが、まるで神の救いのように、温かく見える。
「何だったんだろう、俺の人生」
もう未練は、残っていなかった。

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Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

*** Link Free ***



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