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再誕(1/5)

「こんばんわ☆」
「ばんわ~」
オレがログインすると同時に挨拶を送ってくれるMisatoちゃん。
明るい性格で男女問わず人気のある彼女は、グループの中でも一目置かれる存在だ。

2年位前から始めたオンラインゲーム。
数多あるゲームの中からこれを選んだのは、ソロプレイでも楽しめると言う評判があったから。
折角のオンラインなのにとは思いつつ、仕事の時間が不規則な俺には
一人でも楽しめると言うことは大きな利点だった。
けれど、彼女の出現で、その当初の目論見は霞みつつある。

「ふぁんずさん、今日は遅かったですね?」
「ちょっと仕事が忙しくて」
「じゃあ、何処も行けないかな (´・ω・`)」
「また、今度ね」
「お誘い、待ってます (*´∀`)」
剣と魔法が主役の、ファンタジーの世界。
彼女のキャラは剣一本で突き進む戦士、俺のキャラはひ弱な魔法使い。
互いをサポートするのには、もってこいの組み合わせで
二人でモンスター討伐に出かけることは、珍しいことでもなかった。


初めて彼女と出会ったのは、今のグループに所属したばかりの時。
グループのリーダーであるAyameさんと彼女は、付き合いの長い友達だと言うことで
メンバーの中で一番初めに紹介して貰った。
「こちら、今日入ってくれたFarnsworthさん」
「初めまして~Misatoです☆よろしくです (´▽`)」
「宜しくです」
「え~っと、ふぁんすうぉーす、さん?」
「いや、ファンズワースって読みます」
「有名な建築物の名前ですよね?」
「そうですね」
「へぇ~・・・頭良さげな名前w」
「ははは・・・」

正直言って苦手なタイプの女の子だったし、それほど時間が一緒になることも無かったけれど
戦士と魔法使いと言う相性の良さも手伝ってか、徐々に仲が深まって行った。
「ふぁんずさんは、あたしが守ってあげるからね (`・ω・´)」
女の子に守って貰うなんてと思いつつ、キャラのひ弱さには勝てない。
しかも、彼女は非常に腕が立った。
「Misatoちゃん、ホント上手いよね」
「そんなことないよ~ふぁんずさんがいてくれるから、思いっきり行けるだけ (*´Д`)」
「それは、責任重大だな」
「だから、ガンガン、ヒールお願いね (*´∀`)」


画面の中は一つのキャラクターでも、その向こうには実際の人間がいる。
だから、必然的にそのキャラは、リアルの世界と同じ感情を持つことになる。
少なくとも俺には、そう言うものは無かったけれど、周りは邪推したくなるのかも知れない。
「Farnsさんって、Misatoちゃんと付き合ってるの?」
グループ内のチャットにそんな文章が表示され、俺は一瞬固まった。
「は?」
「すごい仲良いし、いつも一緒でしょ?」
「いや、そうだけど・・・そう言うんじゃ無いよ」
そもそも、ゲーム内のキャラしか見えないのに、そんな感情を持ちようが無い。
しどろもどろになる俺の発言に紛れて、彼女の援護射撃が飛ぶ。
「あたしは、みんなのアイドルだから、ふぁんずさんだけのものじゃないよ (*´∀`)」
チャットの雰囲気は微妙なままだったけれど、俺への集中砲火は何とか収まった。

「ああ言うのは、きっぱり否定しなきゃ、ダメ (# ゚Д゚)」
隣にいる彼女は、俺だけに聞こえるメッセージを送ってくる。
「皆、そう言う話大好きなんだよw」
どんな世界でも、恋愛話は人の興味を大いに惹くらしい。
オンラインは人との繋がりが魅力だけれど、そう言う点だけが厄介だ。


ある夜、遅い時間にログインすると、彼女は居なかった。
いつもの挨拶が無いことを些か寂しく思いながら、俺は一人でレベル上げに赴く。
幽玄の森と名づけられたエリアは、モンスターの数も多く、効率も良い。
レアアイテムも手に入る可能性があるとあって、プレイヤーには人気の場所だった。
ただ、プレイヤーが多く集まるということは、それだけPKも多くなる。

プレイヤーキラーと呼ばれる彼らもまた、一人のプレイヤー。
他のプレイヤーを殺し、持っているアイテムを奪うことを生業とする彼ら。
当然のことながら、忌み嫌われている存在だ。
彼らを倒すべく、プレイヤーキラーキラー、PKKと呼ばれるプレイヤーも存在し
日夜、死闘を繰り返しているらしい。

俺は日頃から、PKが出るような場所にはあまり行かないようにしている。
絡まれたら逃げる自信もなかったし
時間をかけて手に入れた装備を取られるのは、やっぱり悔しい。
けれど、その日は久しぶりにガリガリ戦闘をしたくなって、幽玄の森へ行ってみた。

時間が遅いからか、あまり人影は無かった。
モンスターの波が一段落したところに、一人のキャラクターが現れる。
目の前に立つ、深紅の名前。
PKだ。
初めて出会った殺戮者に、鼓動が早くなる。
青銅色の甲冑に身を包んだ奴は、漆黒の剣を上段に構えたままで警告した。
「さっさと、ここから出ていけ」
何故襲って来ないのか、一瞬考えが過ると同時に、俺はテレポートの魔法でその場から脱出した。

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再誕(2/5)

2日ぶりのチャットは、お叱りからはじまった。
「ふぁんずさん、この間、幽玄に一人で行ったんだって?(# ゚Д゚)」
「ああ、PKに遭っちゃったよ」
「あそこ、いろんなPKいるから、行くならあたしと一緒じゃなきゃダメ (´;ω;`)」
「Misatoちゃんなら、奴らにも勝てそうだね」
「ふぁんずさんの為なら、何でもするよ (*´д`*)」
「はは・・・ありがとう」

最近は、とみにこんな会話が増えてきたような気がする。
少し前にグループチャットで上がった話題が、思い出される。
もしかしたら、彼女は、俺に気でもあるのかも知れない。
そんな考えが巡って、何となく居心地が悪くなる。
下心を否定できない自分が、情け無かった。

そんなある日、Ayameさんから提案があった。
「今度、オフ会でも如何です?」
とは言え、グループメンバーも全国に散らばっており
リーダーのいる東京で開かれる会に参加できるメンバーは限られる。
俺は幸い都内に住んでいるが、オンラインゲームのオフ会は初めてで、若干の抵抗もあった。

「ふぁんずさんは、どーするの? ( ・ω・)」
「どうしようかと、思って」
「ふぁんずさんが行くなら、あたしも行こうかな (*´∀`)」
そんな言葉に、背中を押される。
「じゃ、行こうよ」


画面を通して見るキャラクターには、個々のプレイヤーがいる。
当然のことながら、キャラクターには男女有り、プレイヤーにも男女がいる。
そして、それぞれがどの性別を選んでいるかなんて、画面からでは絶対に分からない。
「Ayameさん・・・男だったんですか」
「あはは。そーなんですよ」
グループリーダーである勇ましい女盗賊の真の姿を見て、思わず声を上げた。
俺よりも少し年下くらいの、大柄でガッシリしたタイプの彼。
けれど、見た目と反する落ち着いた喋り口調は、キャラクターそのままだった。
「アヤメ、って呼ばれるのは抵抗ありますねぇ」
「じゃ、リーダー?」
「難しいですよね、ゲームのオフ会での呼び方って」
そう言って、彼は苦笑した。

「Misatoちゃんは、今日仕事でちょっと遅れるって言うから」
10人ほどの集団は、Ayameさんが予約した店へ向かう。
待ち合わせ中に、互いのキャラ紹介は終わっていたので、話もスムーズだった。
久しぶりに来た新宿の風景を眺めながら歩いていると
参加者の一人の女性に話しかけられる。
「Misatoちゃんに会えるの、楽しみですか?」
あどけなさが残る顔は、好奇心に満ちていた。
「楽しみだけど・・・ホント、そう言うんじゃ無いから」
「ま、Ayameさんみたく、ネカマって可能性もありますもんね」
そう言って、意地悪く笑う。
ああ、それは考えてなかったな、と思いつつ
日頃のチャットの内容を思い返すと、ちょっと気持ち悪いかも、とも思う。

会が始まってから30分ほど経ってから、Ayameさんの携帯に連絡が入る。
「Misatoちゃん、もう少しで着くそうなんで」
Ayameさんはそう言って、何故か俺を見る。
「Farnsさん、申し訳ないんですけど、下まで迎えに行って貰って良いですか?」
「俺?」
「ご指名」
参加者の微妙な視線が注がれるのを、痛いほど感じた。
「あっちから、声かけて来ると思いますから」
彼は意味ありげな表情で俺に囁く。
「彼女なりの、気遣いですよ」


歌舞伎町の入口辺りに位置するビルの前は、行きかう人でごった返していた。
キャバクラの呼び込みをぼんやり眺めていると、声をかけられる。
「Farnsさんですか?」
そこに立っていたのは、スーツを着たサラリーマンだった。
華奢な体つきの彼は、走ってきたのか若干息が上がっている。
俺よりも幾つか年下だろう、細面な顔はまだ学生のような風情だった。
「すみません・・・先に謝っておきたくて」
女性の勘は鋭い、頭を下げる彼を見て、俺はそんなことを思った。
「謝る必要ないけど・・・Misatoちゃん、って呼ぶのは抵抗あるね」
申し訳無さそうな顔をする彼に、俺は笑いかける。

しばらく、ビルの前で立ち話をする。
「俺が行くから、来る、って言ってたよね?」
「いつかバレるくらいなら、いっそのこと盛大にバラしちゃおうと思って」
「で、オフ会?」
「ええ、そうなんです」
確かに、すっかり騙されてはいた。
若干下心を抱いたことが、恥ずかしくなる。
「あの」
俯き加減に、彼は俺の顔を見る。
「オレが男でも、これからも一緒に遊んで貰えます?」
「そりゃ・・・もちろん」
そう答えると、彼はホッとした表情を見せる。
知らなかった方が良かったのか、はっきりとは分からなかったが
俺たちは、メンバーの待つ店へと向かった。

当然のように、会の参加者たちは騒然となった。
あれだけ愛想を振りまいていた、自分をアイドルとまで呼んだキャラがネカマだったことは
それぞれに衝撃を与えただろう。
彼らが俺へ向ける視線は、些か同情の混ざったものに変わっていた。
色めき立ったのは、女性陣。
目を引く容姿の彼が人気を集めるのは、当然なのかも知れない。
どんな飲み会でも、それは一緒なんだな、そう実感した。

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再誕(3/5)

「どうして、ネカマやってるんですか?」
会の様子を楽しそうに眺めているAyameさんに、そんなことを聞いてみた。
「別に、オレはネカマって思ってないですよ。女のキャラをやってるってだけ」
水割りのグラスを回しながら、彼はそう答えた。
女の子たちに囲まれた話題の主に視線を移す。
「彼女?彼?がネカマだって言うのは、前から知ってましたけど」
「そうなんですか」
「敢えて言う必要も無いのかなって思ってました」
手元の酒を一口含んで、彼は俺を見る。
「・・・言っておいた方が、良かったですか?」
「いや・・・どうかな。ちょっと複雑ですけど」
苦笑する俺を見て、彼は呟く。
「虚構の世界でくらい、好きにやりたいもんじゃないですか」

偶然、と言うべきか。
帰りの路線は、Misatoちゃんと同じ方向だった。
会では女性に占拠されてしまったゲーム内のパートナーは、少し疲れた表情を見せている。
「大人気だったね」
「ええ、思いの外・・・」
「パートナーの座を、奪われそうな勢いだな」
「オレのパートナーは、あなただけですよ」
車窓を眺めながら、彼はそう言い切った。

「どうして、ネカマやってるの?」
俺は、今日2回目の質問を彼に投げかけた。
彼は俺の顔を見て、ふと微笑む。
「演じるのが、面白くて」
「そう言うもんかな」
「自分と全く違う、もう一人の自分がいるって感じで、はまっちゃいました」
「見事なネカマっぷりだもんね・・・」
「相当、板についてるでしょう?」
「そりゃ、もう」
言葉を選んでいる風の彼の視線が、俺から外れる。
「・・・でも、逆に、自分の気持ちに素直になれる部分もある」
「え?」
俺の疑問符に、答えは無かった。
疑問に思う間もなく、降車駅のアナウンスが流れる。
「今夜、ログインされます?」
「うん・・・その予定」
「じゃ、お待ちしてます」


彼の気持ち、それが何処にあるのか。
お互いの会話は、客観的に見れば男女間でなされるような内容ばかりで
互いに男であると分かった上では、成立しないものだと、俺は思っている。
彼は、俺が女だとでも思っていたのだろうか。
それとも、男だと分かっていて、ああ言う会話を続けているのだろうか。
あくまで虚構の世界、そう思って、俺も演技をして行かなければならないんだろうか。
いろいろ考えていると、何だか面倒になってくるのも、確かだった。

目の前のキャラは、当然ながら、オフ会前と何の変わりも無かった。
「今日は、お疲れ様でした (´▽`)」
「お疲れ様・・・何か、不思議な気分だな」
「どうして?」
こうやって話している画面の向こうには、彼がいる。
その違和感が、どうしても拭えなかった。
「・・・やっぱり、会わなかった方が良かったな」
しばらくの空白の時間の後、画面の向こうの彼は呟く。
きっと、寂しげな表情を浮かべているんだろうと考えると、居た堪れなくなった。

「ごめん、大丈夫」
「え?」
「今日は、何処行こうか?」
虚構の世界の中の俺は、彼女にそう問いかける。
画面の外にいるのが俺と彼だとしても、この世界にいるのは俺と彼女。
ゲームを楽しむ上で、それが楽しいのなら、それで良いじゃないか。
そう、頭を切り替える。
彼女からの答えが来るまでは、若干の時間があった。
「紅蓮の塔は? ( ・ω・)∩」
「うん、良いよ」
「じゃ、入口で待ち合わせ щ(゚д゚щ)」
「了解」

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再誕(4/5)

ぎこちないながらも、彼女との日常は続いていた。
グループ内での目も、ネカマとの男の友情、と言う扱いに変わっていて
逆に、女性陣からは一部羨望の視線を集めていた。

「そうだ、ふぁんずさん、あたし欲しいものがあるんだ (*´Д`)」
「え?」
装備も、金も、恐らく俺よりもたくさん持っているであろう彼女。
今まで何かをねだられた事は無かったけれど、いつも一緒に遊んで貰ってる恩もある。
そんな風に思って、聞いてみた。
「何?」
「指輪 (/ω・\)」
「高いのは、無理だよ?」

キャラクターが装備できるアイテムの中には、色々と効果のある指輪もある。
ただ、それらは押並べて高価なものが多く、自分でも持ってはいない。
「ううん、その辺の店で売ってるやつで良いの (´▽`)」
「もっと良いの、持ってるんじゃない?」
「ふぁんずさんから、欲しいの ヽ(`Д´)ノ」
何処までが演技なのか、何処からが彼の本心なのか。
まるで本物の女の子のような彼女を見て、俺は少し混乱していた。

街のショップにある、お遊びアイテムでしかない指輪を買う。
「あ、そうだ。もう一つお願い (´▽`)」
「ん?」
「ふぁんずさんの分も買って (*´Д`)」
「俺の分?」
「お揃いにしようよ (*ノ∀ノ)」
押し切られるよう、俺は指輪をもう一つ買い、一つを彼女に渡す。
彼女の装備品ウィンドウに、質素な指輪が表示された。
「宝物にします。本当に、ありがとう」
顔文字の無いその言葉に、俺は少しの違和感を感じつつ、画面の中の彼女を見ていた。


それからしばらく、彼女の姿を見かけなくなった。
今まで、2、3日のブランクが開くことはあったけれど、もう1週間にもなる。
その夜も、彼女からの挨拶は無かった。
何かあったんだろうか、そう不安に思っているところにAyameさんからのメッセージが来る。
「Misatoちゃん、グループ抜けたから」
「え・・・どうして?」
「別キャラが、晒されちゃってね」

オンラインゲームに付き物の、インターネット上の掲示板。
いろいろな話題が上る中で、有名なキャラやPKなどの素性を晒すものも存在する。
何回か目にしたことはあったが、特に関係ないとあまり気にしてはいなかった。

『幽玄によくいるPK・Misallyの別キャラは、Misatoって女戦士』
『こいつ、ネカマで他の男からアイテム貢いでもらってるってさ』
『赤ネの中では相当腕利き。PKK総動員して、あの剣、強奪しようぜ』

掲示板に並んだ匿名の書き込みを見て、心底気分が悪くなる。
確かに、俺もPKは嫌いだ。
でも、それはゲームの仕様上認められている行為。
PKを楽しむプレイスタイルも、否定できない。
アイテムを貢いで貰ってるなんて話も、聞いたことは無かった。

「その書き込みが本当のことかなんて、分からないでしょう?」
「でもね」
Ayameさんは冷静だった。
もしかしたら、全て分かっていたのかも知れない。
「一回流れてしまった噂は、この世界じゃ、もう消えないから」
チャットウィンドウに、しばらく空白が訪れる。
「Misatoちゃん、皆に迷惑掛けるからって、そう言って抜けたんだよ」


幽玄の森には、多くのプレイヤーがモンスター討伐に精を出していた。
やたらと目立つ深緑の名前のプレイヤーは、PKKの証。
この色の名前には、PKを殺す場合に限って
プレイヤーがPKと見なされるステータス、PKカウントが付かないと言う利点がある。
PKが出たと誰かが叫べば、その緑の集団が一斉に動き出す。
いつもなら、安心すべき状況なのかも知れないが
PKを探す俺にとっては、とても居心地の悪い状態になっていた。

紅い名前を見かけ、それが目的のキャラでは無いと分かれば、即座にテレポート。
それを何度も繰り返している内、PKが複数のPKKに襲われているところに出くわした。
PKの名前を見て、思わず手が動いた。
攻撃されているキャラに、ヒールの魔法をかける。
"PK幇助の為、通常の1/5のPKカウントが付きます"
そんなシステムメッセージが、ウィンドウに表示された。
PKK達の手が止まり、一人がこちらへ向かって来る。
僅かなPKカウントが付いた俺は、当然、彼らの攻撃対象となるからだ。
「お前らの相手は、オレだ」
傷が癒されたPKは、そう言い放つ。
俺はその場から動けず、目の前でPKKが倒されて行くのを、黙って見ていた。

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再誕(5/5)

通常、プレイヤーの名前は白で表示されている。
PKならば赤、PKKならば緑。
各々、PK・PKKの回数によってカウントが付き、その数字が大きいほど色が濃くなる。
目の前のPKの名前は、ほぼ極限まで赤く染まっていた。
そして、その側に立つ俺のキャラの名前も、極々僅かに赤みを帯びている。

彼の手に握られているのは、PKカウントが高いキャラしか持てない漆黒の剣。
今まで、相当数のPKを繰り返してきたことの証明だ。
しかも、サーバー上にも数本しかないと言われている、超レアアイテム。
PKK達が目の色を変えて狙っている理由は、ここにあるんだろう。

「どうして、ヒールなんかしたんですか」
Misallyと名前を変えた彼は、俺にそうメッセージを送ってくる。
「PKカウントが付くことは、ご存知でしょう?」
「知ってる」
「カウントを消すには、かなり時間がかかるんですよ?」
「でも、君にヒールするのが、俺の役目だろ?」
それは、俺の本心だった。
キャラが変わろうと、彼を癒すのが、俺の望み。
そんな思いが、俺を突き動かした。
「ここじゃ危ないから。どっか、他の場所で、話せない?」


人気の無い湖のほとりに立つ。
以前、Misatoちゃんに連れてきて貰った、彼女のお気に入りの場所。
けれど、今隣にいるのは、全身甲冑に身を包んだ深紅の名のキャラクター。
「噂は、本当なんだ」
「はい・・・」
「もう、Misatoちゃんは、戻って来ないの?」
「話が広まった以上、あのキャラは、封印ですね」
「そうか」
一番隣にいてくれたパートナーを失った気がして、気分が落ちる。
「俺は、これから、誰にヒールすれば良い?」

彼からの答えを聞くまでには、かなりの時間を要した。
「Farnsさん位の腕なら、皆喜んで組んでくれますよ」
それが彼の本心とは、思いたくなかった。
「そのキャラじゃ、本当のことは言ってくれないの?」
「そう言う訳じゃ」
「Misatoちゃんが言ったことも、全部演技?」
「違います。それは、違う」

ふと、彼の装備品ウィンドウを開く。
全身がレアアイテムで包まれる中、指輪だけが店売りのもの。
それは、あの時、俺があげた指輪だった。
「もっと、良い指輪、あるんじゃない?」
押し黙ってしまった彼に、問いかける。
「これは、オレの宝物だから」
「他の、買ってあげるよ」
「いえ、これで良いんです。あなたと、一緒じゃなきゃ、意味が無い」
彼は、何を言おうとしているのか。
おぼろげに予想が付いて、俺は若干緊張してくる。


「ごめんなさい」
沈黙を破った言葉は、謝罪だった。
「何が?」
「オレ、あなたのこと、好きなんです」
画面に表示された文字に、言葉が出なかった。
予想は付いていても、その状況が上手く飲み込めない。
「男同士なのに、ホント、気持ち悪いですよね」
彼は、ポツリポツリと言葉を文字にする。
「一緒に遊んでる内に、どんどん、好きになって」
言葉を選んでいるのか、発言の間が空く。
「自分でも、どうしたら良いのか、分からない」

誰かから好意を向けられることは、決して悪い気分じゃない。
俺が、彼を追いかけて幽玄の森まで行ったのも
PKカウントが付くと分かっていて、ヒールをかけたのも
もしかしたら、自分で気付いていない、彼への好意からなのかも知れない。
何より、彼のいない、この世界は考えられなかった。

「謝られても、困る」
身を引き裂くような思いで吐露した彼がどんな言葉を待っているのかは、分からない。
でも、これが俺の本心。
「君にヒールをかけるのは俺だけだ、って言ってよ」
その答えを待つ事無く、文字を吐く。
「もっと、君と一緒に、いたい」
居た堪れない間の後、画面に文字が浮かぶ。
「ありがとうございます。これからも、癒して、下さい」


「そのキャラ、メインで行く?」
「いや・・・新しいキャラを作るのは、どうですか?」
「構わないよ。今度もネカマ?」
「お望みなら」
男キャラよりは女キャラの方が良いけど、と思いつつ
実際の彼は男で、彼が操る女キャラに惹かれていく事には、若干の背徳感もあった。
「どっちにしたって、中身はオレですから」
「なら、ネカマにして貰おうかな」
「良いですよ」
「その方が、2人でいても、自然だしね」

次の日から、俺たちは新たな旅に出た。
装備も貧弱で、魔法も殆ど使えない。
でも、互いに信頼できるパートナーに支えられている。
それがこのゲームで最も大切なものなんだと、改めて実感した。

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Information

まべちがわ

Author:まべちがわ
妄想力を高める為、日々精進。
閲覧して頂いた全ての皆様に、感謝を。

2011-3-12
東日本大震災の被害に遭われた方に
心よりお見舞いを申し上げます。
故郷の復興の為に、僅かばかりにでも
尽力出来ればと思っております。

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